認知症や相続の遺産分割の対策として成年見人制度があります。
高齢化が進む日本では相続時の遺産分割対策として、成年後見人を利用する人もいるのではないでしょうか。
成年後見人は、認知症の方が利用する制度というイメージがありますが相続でも成年後見制度は活用ができます。
成年後見人は、「高齢者のための制度」や「相続における対策」となんとなく知っているけれど、どんな制度なのか内容まではわからない方も多いと思います。
さらに成年後見人は裁判所を通じた手続きでもあるため「難しい」というイメージを持っている人もいるのではないでしょうか。
本コラムでは、成年後見制度の仕組みと注意点をご紹介していきます。
活用したいけど制度の仕組みがわからない。家族が認知症になってしまっているという方はぜひご参考ください!
成年後見制度とは
認知症の方だけではなく知的障害者など判断能力が低下すると自身の財産管理・契約行為、相続における遺産分割協議などの様々な行為が難しくなります。
提案された契約が自分にとって必要か不要かの判断が難しくなるため、契約をしてしまったり、遺産を売却してしまったりなど財産を減らしたり失ったりするようなケースがあります。
このようなリスクから高齢者を保護・支援するのが「成年後見制度」です。
認知症のほか、知的障害、精神障害、病気や事故により脳に障害を負った人などもこの制度の対象になります。
成年後見人になれる人
成年後見人は家庭裁判所が選任します。
成年後見人になるための資格や権利などは特になく、内容によって本人を最大限に支援できる人を選びます。
成年後見人になれる人は以下のような方が対象です。
- 本人の親族
- 法律や福祉の専門家
- その他の第三者(市民後見人)
- 福祉関係の公益法
しかし親族でも未成年の子供や破産している者・行方がわからない親族などは成年後見人になることが出来ませんので注意しましょう。
成年後見人の3つの役割
成年後見人が選任された後、成年後見人が事務業務を行いますが、どのような業務があるのでしょうか。
成年後見人の役割は以下の3種類です。
- 財産管理
- 身上監護
- 家庭裁判所への報告
それぞれ解説していきます。
成年後見人の役割①財産管理
成年後見人は、認知症などの方の財産を適切に管理する役割があります。
管理する財産は以下のとおりです。
- 預貯金、現金の入出金
- 不動産や車、株式などの資産の管理・処分
- 税金、年金の申請と納税(年金の場合は受取)
成年後見人の役割②身上監護
身上監護と本人の生活を維持・健康や安全のために支援を行います。
支援の内容は以下のような手続きなどです。
- 医療や福祉サービスについての契約や手続き・支払い
- 住居の手続きや支払い・契約などの手続き
- 介護保険の認定申請手続き
- 郵便物の管理・処分
成年後見人の役割③家庭裁判所への報告
成年後見人は、家庭裁判所より選任された者が支援を行うため原則年1回,裁判所に後見事務の報告をします。
報告資料は以下の4つです。
- 後見等事務報告書
- 財産目録
- 預貯金通帳のコピー
- 本人収支表
2つの成年後見人
成年後見人には法定後見人と任意後見人の2パターンがあります。
どちらも先ほどご紹介した役割を行なう事に変わりはありませんが、それぞれの特徴をご紹介します。
パターン①法定後見人
すでに判断能力が低下している場合や、自分で書面契約などが必要なサービスや、身の回りの財産管理が困難な場合には法定後見制度を利用します。
本人の判断力がどれだけ不十分になっているかにより3つの類型があります。
- 法定補助人
- 法定保佐人
- 法定後見人
これらをまとめて成年後見人等と表現します。
法定後見人等は家庭裁判所が選任するため、不平や不満などがあっても原則として変更することはできません。
親族でも法定後見人になれますが、弁護士や司法書士・社会福祉士などが選ばれることが多いです。
法定後見人のメリット
中立的な立場の人が成年後見人等に選ばれるため、認知症の方などにとって安心して後見事務を任せられるというメリットがあります。
法定後見人のデメリット
士業などの第三者が成年後見人等に選ばれると、家庭裁判所が決定した報酬が毎月発生します。
パターン②任意後見人
判断能力をまだ持っているうちに、判断能力が不十分になった時に備えるため、後見事務の内容と後見する人を事前の契約によって決めておく制度が任意後見制度です。
判断能力がある方と任意後見人に選ばれた人が、任意後見契約を結び、公正役場でその内容で公正証書を作成します。
任意後見人のメリット
任意後見人のメリットは4つあります。
- 被相続人が希望する人が成年後見人になれる
- 任せる業務を選べることから被相続人の意思が尊重されやすい
- 意思が尊重されやすいので不正が発生しにくい
- 契約行為が行える
任意後見人のデメリット
任意後見人は柔軟性の点でメリットもありますが、デメリットもあります。
- 取消権がない
- 相続への対応が出来ない
任意後見人は法定後見人と違い、たとえ身上監護でも契約の取り消しを行なう事ができません。
さらに成年被後見人が亡くなった場合それと同時に任意後見人の役割も終了してしまうので、葬儀の準備などの亡くなった後の支援は任意後見制度では行えませんので注意しましょう。
相続時の成年後見人の役割
冒頭で成年後見制度は成年後見には認知症だけではなく相続でも活用ができるとご紹介しました。
相続時における成年後見人の役割は主に次の2つです。
- 成年被後見人の法定相続分を守る
- 遺産分割協議への参加
役割①成年被後見人の法定相続分を守る
相続が発生すると認知症や障害により判断能力が低下している方では自身の相続分がどのくらいあるのか、どのくらい遺産を受け取る予定なのか、遺留分は侵害されていないかなどの判断が難しくなります。
そのような場合、成年後見制度を活用することで成年被後見人の法定相続分を守る事が可能になります。
役割②遺産分割協議の参加
被相続人が遺言書を残さず相続が発生した場合、相続人全員で遺産分割協議を行います。
ですが遺産分割協議は法律行為のため、相続人の中に認知症などの判断能力が低下した方がいる場合、遺産分割協議を行なう事が出来ません。
成年後見人は本人が不利にならないような法定相続分を確保するため、他の相続人と協議し遺産分割協議書に則って財産を本人名義に変更する手続きを行います。
遺産分割に参加しなくても良い場合あります
遺言書がある場合、成年後見人を選定する必要はありません。
一般的に遺言書が残されている場合には、相続時に認知症等の判断能力がない方がいても原則として遺言書通りに遺産分割を行います。
遺留分を侵害するような遺言書であったとしても遺言書自体が無効になることはありません。
遺言書が無効になるのは遺言書の作成での不備や遺言能力がないと判断された場合などに限られるためです。
特別代理人が必要なケースがあります
未成年者は自ら法律行為を行使する事ができません。
一般的に未成年の相続人がいる場合には親権者が代理人となって法律行為を行います。
一方で親権者が未成年の相続人の代理人となる場合、一方には利益があり一方には損が起きてしまう利益相反が起きる可能性があります。
このような場合には「特別代理人」を選任し未成年者の代理人として法律行為を行います。
特別代理人や利益相反などについては今後詳しくご紹介します。
成年後見制度を開始するのに必要な書類や費用は?
成年後見制度を開始する場合には月々の費用や提出しなければならない書類があります。
成年後見制度を活用する際の費用
成年後見制度が始まると成年後見人への報酬の支払いが発生します。
成年後見人に選ばれる人によって費用が異なるため専門家などに相談しながら決める事をオススメします。
また身上監護等に特別困難な事情があった場合には、プラスで報酬を支払う必要があります。
成年後見制度を活用する際の手続き
成年後見制度を活用する場合、成年後見人を選出するため以下の書類を裁判所へ提出します。
- 後見・保佐・補助開始等申立書
- 代理行為目録
- 同意行為目録
- 申立事情説明書
- 親族関係図
- 財産目録
- 相続財産目録
- 収支予算表
- 後見人等候補者事情説明書
- 親族の意見書について
- 親族の意見書・同記載例
- 「本人情報シート」の作成を依頼された福祉関係者の方へ
- 診断書を作成いただく医師の方へ
- 診断書(成年後見制度用)
- 診断書付票
- 戸籍謄本(または住民票)
- その他(収入印紙・郵便切手)
今回は東京家庭裁判所の申請提出書類を例に上げましたが、申立をする裁判所によって提出する書類が異なる場合があります。自身の住んでいる地域の裁判所をチェックし必要書類を確認してみましょう。
各地の裁判所(https://www.courts.go.jp/courthouse/map/index.html)
成年後見制度の3つの注意点
成年後見制度を活用する場合次の3点に注意しましょう
- 横領の危険性
- 財産に鍵がかけられ引き出しが難しい
- 相続が終了しても途中で辞める事が出来ない。
注意点①横領の危険性
近年、成年後見人に選任された人の資産の使い込みがトラブルにが問題になっています。
親族や兄弟が選任され資産を使い込んでしまうというケースもあります。
注意点②財産に鍵がかけられ引き出しが難しい
成年後見制度は成年被後見人の財産を保護するための制度のため、制度を開始すると成年被後見人の財産保護のため鍵がかけられます。
成年被後見人の口座から家族の生活費や介護費用などを捻出している場合、裁判所が口座から出金しても良いかを判断を仰ぐ必要があります。
注意点③相続が終了しても途中で制度を終了することが出来ない
成年後見制度は認知症だけではなく相続でも活用する事が可能です。
一方で相続が一段落しても成年後見制度を途中で終了する事は出来ません。
一度成年後見人を選任した場合、被後見人死亡時まで制度を終了させることが出来ません。
相続のためだけに成年後見制度を活用してしまうと返ってデメリットが大きくなる可能性があります。
特殊な事情(横領や使い込み、成年後見人の事故)などがない限りは途中で終了することが出来ませんので注意しましょう。
成年後見制度は相続対策になる?
成年後見制度は身上監護や財産管理などの観点から相続対策として考えている方も多いのではないでしょうか。
成年後見制度はご本人の財産や権利等を保護するための制度であり、ご紹介したように財産に鍵がかけられてしまうなどの観点から利用しにくいという点があります。
そのため遺産分割協議への参加などのメリットもありますが、相続対策・相続税対策としては十分に活用する事が難しいです。
家族信託は認知症・相続対策にもなります
認知症や相続対策をするならば家族信託を選択する事をおすすめします。
家族信託では財産を管理する人を選べる他にもそのような目的で財産を信託するのかを明確に決めることが可能です。
詳しくは「相続対策としての家族信託とは?仕組みや活用術をご紹介!」をご覧ください!
家族信託の仕組みからメリット・デメリットまで詳しくご紹介しております。ぜひご一読ください!
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【記事のまとめ】
成年後見人は成年被後見人の財産を保護する制度のため、財産を管理・保護する事や家族信託にはない契約手続きなどを行なう事が出来る制度です。
一方で相続への対応策というだけで成年後見人を選任してしまうと、成年被後見人や家族などへの負担が増えることや使い込みなどの被害も出てくるため利用しにくい制度です。
相続対策として成年後見制度を利用するのかは慎重に判断しなければなりません。
認知症や相続対策をするためには専門家の知識や経験が必要になりますのでお困りの方は、専門家に相談することをおすすめします。