相続の遺留分とは?割合や法定相続分の違いなどを解説

相続の遺留分とは?割合や法定相続分の違いなどを解説

最低限相続財産を受け取ることができる権利が遺留分

相続が開始され、財産を相続人全員で分ける際には遺言などの方法があります。
しかし、遺言に不平等な分割方法が記載されていた場合には誰も納得ができません。
そのような場合には、相続人は最低限度の相続財産を受け取れる権利である遺留分を請求できる可能性があります。
本記事では、相続でよく聞く遺留分とは何か。認められる範囲はどの相続人までなのか・割合などを詳しくご紹介します。

遺留分とは?

前述でご紹介しましたが、遺留分とは亡くなった被相続人の相続人(配偶者や子ども等)が最低限財産を受け取れる割合を主張することが可能な権利です。
この割合は例え相続時に大きな効力を持つ遺言書でも侵害することはできません。
そのため仮に「配偶者に全ての財産を相続させる」や「相続人ではない第三者に財産を渡す遺贈」などの内容が遺言書に記載されていた場合でも、相続人は遺留分を主張することで、最低限財産を受け取ることができます。

法定相続分との違い

相続財産を受け取れる割合の中には、法定相続分というものがあります。
法定相続分は、民法に定められている法定相続人が有する相続分の割合のことです。
しかし法定相続分はあくまで遺産分割の目安の割合のため、必ずしも法定相続分通りに財産を分けなければならないわけではありません。
この相続分は亡くなった被相続人との続柄によって異なります。

法定相続分は以下の通りです。

配偶者と子どもの場合配偶者:2分の1 直系卑属が2分の1
配偶者と被相続人の両親の場合配偶者:3分の2 直系尊属が3分の1
配偶者と被相続人の兄弟姉妹の場合配偶者:4分の3 兄弟姉妹4分の1

参照:e-Gov法令検索 民法第九百条「法定相続分」
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089
(2024年4月28日 利用)

なお、子ども(直系卑属)や兄弟姉妹の法定相続分は、上記の法定相続分から人数で分けます。
例えば、子どもが2人いる場合の法定相続分は配偶者が2分の1。子どもが4分の1ずつになります。
兄弟姉妹(兄と妹)の場合は配偶者が4分の3。兄妹がそれぞれ8分の1ずつになります。

放棄が可能

遺留分は財産を最低限受け取ることが可能な権利のため、主張し最低限の財産を受け取るのかどうかを決めるのは侵害されている相続人次第になります。
そのため遺言書に「配偶者に全財産を相続させる」という内容の遺言書があったとしても、他の相続人が納得していれば遺言通りに遺産を分割しても問題ありません。
生前から遺留分を放棄することも可能ですが、家庭裁判所への申立を行い許可がでなければ生前に放棄をすることはできません。
例えば他の相続人から圧力をかけられて仕方なく放棄の手続きをしている可能性も十分にあります。
そうなると、放棄をする相続人にとって不利益になる可能性があるため、家庭裁判所はその相続人が放棄をするのが合理的であるかどうかを判断しなければなりません。
また一度放棄をした場合には撤回はできませんの注意しましょう。

認められる範囲は?

遺留分には、不足している遺産の割合を請求できる相続人が限定されています。

遺留分が認められる相続人は?

遺留分が認められる相続人の範囲は以下のとおりです。

  • 被相続人の配偶者
  • 子どもなどの直系卑属
  • 両親や祖父母などの直系尊属

被相続人の配偶者

配偶者は必ず相続人としてカウントされるため、請求をすることが可能です。

子どもなどの直系卑属

卑属とは被相続人と親子関係にある血族のことで被相続人の後の血族を指します。
子どもや孫・ひ孫などが該当し直系卑属も請求することが可能です。

両親・祖父母などの直系尊属

尊属とは卑属と反対で親子関係にある血族のことで被相続人の前の血族を指します。
両親や祖父母などが該当し請求をすることができます。

遺留分が認められない相続人は?

反対に以下の相続人には遺留分を請求することができません。

  • 兄弟姉妹や甥姪などの姪孫

兄弟姉妹や甥姪などの姪孫

兄弟姉妹や甥姪などの姪孫(てっそん)は、血縁上遠い存在となります。
被相続人と血縁関係はあるものの、実際の相続でも相続順位が低いなどの理由から兄弟姉妹やその子どもに当たる甥姪には遺留分を請求することはできません。

遺留分の計算方法と割合は?

遺留分とは、相続人が最低限、遺産(財産)を受取ることができる割合のこと。
ではその割合は具体的にどのくらいの遺産を受取ることができるのでしょうか。

遺留分は法定相続分の半分

基本的には遺留分は法定相続の半分となります。
しかし、これは直系卑属に限るものであり両親や祖父母などの直系尊属の相続人は半分ではなく3分の1となります。
前述でご紹介しましたが法定相続分の半分が遺産を受け取れる割合になります。
例えば配偶者の法定相続分は2分の1ですが、4分の1が遺産を受取る割合になります。
子どもが2人いる場合には、法定相続分は均等に振り分けられるので4分の1となります。
その半分である8分の1が子どもが遺産を受取る割合になります。

遺留分は2段階で計算する

実際に遺留分が侵害されていた場合には、2段階の過程を得て計算を行います。
総体的遺留分という全体の遺留分がどのくらい侵害されているのか計算をし、その後に個別の割合である個別的遺留分を計算します。

総体的遺留分の計算方法

総体的遺留分は、誰が相続人になるのかによって異なります。
直系卑属+尊属が相続人となる場合には、遺産全体の2分の1が総体的な侵害になります。
反対に直系尊属のみが相続人となる場合には、遺産全体の3分の1が総体的な侵害となります。

個別的遺留分

総体的な侵害を出した後、各相続人の法定相続分をかけて計算をします。
例えば亡くなった被相続人の妻と母が相続人の場合を考えてみましょう。

今回は直系卑属+尊属が相続人となるため、総体的遺留分は2分の1となります。
各相続人の法定相続分は、妻が2分の1。母が3分の1となるため計算式は次のようになります。

2分の1✕3分の1=6分の1
3分の1✕3分の1=9分の1

具体例

被相続人が残した遺産の財産総額が1億円で、法定相続人が故人の子ども2人だけの場合を考えます。
この場合、子どもたちの法定相続分はそれぞれ1/2ずつです。

遺言の内容

故人が遺言で相続人Aに8,000万円、Bに2,000万円の遺産を遺すと指定していたとします。

法定相続分

  • 相続人長男Aと次男Bはそれぞれ5000万円ずつが法定相続分です。

遺留分の計算

遺留分は、法定相続分の一定割合で計算されます。
相続人は子どもであり直系卑属なので、それぞれの遺留分は法定相続分の1/2です。

  • 長男Aの遺留分 = 5000万円 × 1/2 = 2500万円
  • 次男Bの遺留分 = 5000万円 × 1/2 = 2500万円

遺留分侵害額の計算

  • 長男Aの受け取るべき遺留分は2500万円ですが、遺言により8000万円を受け取るため、遺留分が侵害されていません。
  • 次男Bは2500万円の遺留分に対して2000万円しか受け取っていないため、遺留分が500万円侵害されています。

遺留分侵害額請求

次男Bは、自身の遺留分が侵害されたことに基づき、遺留分侵害額として500万円の請求が可能です。

このように遺留分侵害額請求は、遺言による配分と法定の遺留分を比較し、不足分を請求することになります。請求には、遺産分割協議や家庭裁判所による調停・審判を通じて行われることが一般的です。また、遺留分の計算や請求には複雑な要素が絡むため、具体的な手続きを進める場合、専門の法律家に相談することをお勧めします。

侵害されたら遺留分侵害額請求を行う

遺留分が侵害された場合、相続人は遺留分を請求をすることができることが、実際にどのような手続きをすればいいのでしょうか。
遺留分を侵害されたら遺留分侵害額請求を行います。
これは遺留分を現金などのお金に換算して返してもらう手続きのことです。
例えば前述でご紹介した遺留分の計算の結果、配偶者への相続によって長男が500万円侵害されていた場合、長男は500万円分被相続人の配偶者に現金としてお金を請求することができます。

遺留分侵害額請求と遺留分減殺請求との違い

遺留分が侵害された場合、今までは減殺請求と言われてきました。
この請求は、現金などのお金ではなく遺産そのものを取り戻す権利でした。
しかし、不動産などの分割することが難しい財産が相続財産の中にあった場合には共有という形が取られていました。
しかし不動産などの共有は、売却したいと1人が思っていても他の名義人が財産の売却を拒否した場合には売却などを行うことができません。
そうなると名義人同士の仲が悪くなってしまいます。
それを防ぐために財産そのものを取り戻す権利ではなく、現金などのお金に換算をして請求する権利に法改正されました。
現金などのお金に換算することで財産そのものよりも簡単に1回で解決することができます。

時効は1年間(除斥期間は10年)

遺留分は、相続開始と遺留分侵害の事実を知ってから1年間が時効になります。
この期間を過ぎると時効が成立するため請求を行うことはできません。
また遺留分や相続開始から10年を過ぎた場合には除斥期間が適用されるため遺留分を侵害されていたとしても請求をすることができませんので注意しましょう。

時効期間を止めることが可能

相続の発生・遺留分の侵害を知った日から1年以内に請求を行わなければ、後に判明した場合でも請求を行うことはできません。
しかし1年以内に相手方の相続人に請求したことを証明すれば時効を止めることができます。
この場合、内容証明郵便という「いつ・誰が・誰に・どんな内容の文書を送った」を活用することで相手方の相続人に「知らない」という時効成立の主張を拒否することができます。
ただし、内容証明郵便は送ったことを証明するための郵便なので中身が有効である証明にはなりませんので注意しましょう。

遺留分侵害額請求の流れとは?

相続時に遺留分が侵害されていた場合に、侵害額請求を行う必要がありますが相続は意外と時間が早く過ぎてしまいます。(遺産分割協議や遺言書の発見・相続財産の調査・相続税の計算・納付・準確定申告等)
相続時に侵害が起きていると知った場合にはどのような請求を行うのでしょうか。

  1. 相続人同士で話し合う
  2. 調停
  3. 訴訟

①相続人で話し合いを行う

まず初めに、相続人同士できちんと話し合いを行いましょう。
ここで相続人同士で納得ができれば問題ありませんが、受け取った遺産を離したくない相続人もいます。
また遺言書があるため、被相続人の想いを守りたい相続人など人によって様々な相続や遺産分割への考えがあります。
揉めそうな場合、いきなり話し合いの電話や機会を設けるのではなく前述でご紹介した内容証明郵便を送付してから話し合いの機会を設けましょう。

②調停

相続人同士の話し合いで話がまとまらない場合、遺留分侵害額請求の調停を家庭裁判所にて申立を行います。
調停の場合、調停委員が間に入り調整を進めます。
遺留分は最低限相続財産を受取ることができる権利のため遺言書でも侵害をすることはできません。
相続人同士では感情が介入してしまう可能性がありますが、家庭裁判所から専任された調停委員は公平に判断を行ってくれます。

③訴訟

調停でも相続人同士の意見がまとまらない場合には、訴訟を行います。
この訴訟では侵害されている侵害額を計算し、侵害している相続人に支払い命令を下します。
主張が認められた場合には、相手の相続人の合意は必要ありません。
相続人同士とは言え裁判なので1人で全ての証拠を集めることは難しく法律的な用語などもでてくるため弁護士などの専門家に相談をし依頼をすることをおすすめします。

遺言書以外でも請求できるケースがある

遺留分は遺言書で書かれた遺産分割の指定以外でも侵害されていれば請求を行うことが可能です。
遺言書以外でも請求できるケースは次の3つです。

  1. 生前贈与(死因贈与)
  2. 特別受益
  3. 遺贈

生前贈与

生前贈与は遺言書などと並ぶ相続対策の1つであり、生前の元気な間に財産を渡す対策方法の1つです。
遺留分の請求対象となるのは、相続発生から1年以内の贈与に限定されます。
しかし生前贈与による財産の移動が遺留分の侵害になることを知っていた場合で行った贈与の場合、この限りではなく1年前以上前の贈与でも請求することが可能になります。

特別受益も対象に

特別受益とは、生前贈与や遺贈によって生前に被相続人から特別な利益を受けた人のことを言います。
例えば結婚などの費用や居住用の住宅の贈与などが該当し、生前贈与が特別受益として認められる場合、10年以内の贈与が遺留分の対象になります。

死因贈与

死因贈与は、相続発生後などの被相続人が死亡したことをきっかけに効果を発生させる贈与のことを言います。
遺言書は単独で遺産の承継先を決めることができるのに対し、死因贈与は死因贈与契約書などの当事者同士が納得していなければ成立しません。
しかし、贈与は口頭でも成立する契約になるため相続発生後、トラブルになるおそれがあります。

記事のまとめ

相続発生時に自身の引き継いだ財産(遺産)が他の相続人よりも少なく不公平に引き継いだ際に請求を行える遺留分についてご紹介しました。
遺留分は遺言書を作成しても侵害されていた場合には請求ができるため、遺言書でも犯すことができません。
不公平な遺言書が見つかったり、他の相続人に多くの贈与が行われていたりしたら、最低限相続財産を受取る請求を行う事ができる可能性があります。
しかし、計算方法や手続きなどは1人で行わずに専門家に請求できるのか・どのような手続きをすれば良いのか必ず相談しながら進めましょう。