相続手続きが楽になる遺言執行者とはどんな役割?

被相続人の想いを実現するのが遺言執行者です

遺言書を検討されている方は、書き方や注意点などを気にされている方が多いかと思いますがその中に「遺言執行者を選任する」という言葉を聞いたことはないでしょうか。
本記事では遺言書を検討されている方が知っておくべき遺言執行者についてご紹介します。
概要から選任するべきケースやメリット・デメリット、執行人になったら行うべきことなどをわかりやすくご紹介します。

遺言執行者とは?

そもそも遺言執行者とはどのような人なのでしょうか。
遺言執行者とは、発見された遺言書に記載している内容通りに遺産を分配するために様々な相続手続きを行う執行人のことを言います。
被相続人の方が残した最後の想いを実現するために様々な手続きを行います。

遺言執行者になれる人

遺言執行者は基本的に誰でもなれます。
そのため相続人でもなることが可能です。
ただし未成年者や破産者は執行人になることできませんので注意しましょう。

遺言執行者の権限・義務

遺言執行者とは、被相続人の想いを実現するために様々な手続きを行う人だとご紹介しましたが、実際にはどのような役割があるのでしょうか。
ここでは、遺言執行者ができることの代表的な役割を5つご紹介します。

  1. 相続人の確定
  2. 相続財産の調査
  3. 財産目録の作成
  4. 内容実現のために各種手続きを行う
  5. 通知義務

①相続人の確認

相続が発生した場合、被相続人が保有していた財産は相続人の共有になります。
遺言書に分配方法が記されていてもその人が相続人に当たるのかどうか判断をしなければなりません。
そのため執行者に選任された場合には、速やかに相続人の調査を行い発生した相続の相続人を確定しなければなりません。
「家族だけでしょ?」と考える方もいらっしゃるかもしれませんが、隠し子や前妻の子などがいる場合には相続人としてカウントされる可能性がありますので執行者は隅々まで調べる必要があります。

調査の方法

相続人を調査する場合の方法は、通常の相続と変わらず戸籍謄本を取り寄せて調査を行います。

②相続財産の調査

相続人を調査するだけでは、相続手続きは進みません。
どのくらいの財産を保有しているのかを把握するためにも、相続財産を調査し後にご紹介する財産目録を作成しなければなりません。
相続人に対し生前贈与があったのかどうかなど遡って確認する必要があります。
財産目録は相続人全員に交付しなければならないため、慎重に相続財産の調査を行いましょう。

③財産目録の作成

前述でご紹介しましたが、遺言執行者は財産目録を作成し相続全員で交付しなければならないと民法で定められています。
そのため選任された後、相続が発生した場合には必ず財産目録を作成しましょう。

④遺言書の内容を実現するために各手続き

遺言執行者は被相続人の想いを実現するために様々な手続きを行います。
そのため様々な権利義務が与えられています。

与えられている権利・義務は以下の通りです。

  1. 各財産の名義変更手続き
  2. 所有権移転登記の手続き
  3. 遺産分割方法の指定
  4. 財産の遺贈
  5. 相続税の納付手続き

1.各財産の名義変更手続き

各財産とは、預貯金・有価証券・自動車などの財産が該当します。

現金や有価証券の場合、各金融期間で名義変更手続きを行います。

2.所有権移転登記の手続き

遺言書の中に土地・自宅などの不動産がある場合には所有権移転登記が必要になります。
遺言執行者は財産の中に不動産がある場合は、所有権移転登記を行います。

3. 財産の遺贈

遺言書の内容に遺贈(特定遺贈:特定の財産を相続人以外に引き継がせること)のことが書いてある限り、遺贈を履行できるのは遺言執行者のみと民法第千十二条第2項に定められています。
そのため遺贈が記載されている場合は、執行者が受遺者に財産を引き継がせる手続きを行います。

 参照:e-Gov法令検索 民法第千十二条第2項(遺言執行者の権利義務)
(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089)
(2024年1月22日 利用)

⑤通知義務

遺言執行者は様々な権利がありますが、権利だけではなく義務もあります。
遺言執行者には相続人全員への通知義務があります。
改正前の民法では、通知義務がなかったので執行者と相続人同士で連携が取れずに勝手に手続きが進みトラブルになってしまうことがありました。
ですが2019年の民法改正によって以下のような通知義務が追加されました。

  • 執行者に就任したことに加えて遺言書の内容
  • 執行者として行った手続きの内容・結果

通知義務を怠ると損害賠償請求や解任される可能性が‼

通知義務を怠り、財産目録の交付をしない場合や相続人からの請求に応じないなどの執行者としての責任を怠った結果相続人や、遺贈の受贈者が被害を被った場合には損害賠償請求が可能です。
さらに執行者としての責務を果たさないことや、特定の相続人・受贈者に対して有利になる扱いをしている場合には執行者を解任することも可能です。

遺言執行者を選任するメリット・デメリット

実際に遺言執行者を選任することでどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。

遺言執行者を選任するメリット

遺言執行者を選任する大きなメリットは、相続手続きを円滑に進めることが可能です。
被相続人が保有している財産の中には、相続人全員の同意がなければならない財産や届出書を提出しなければならない金融機関などがあります。
遺言執行者は単独で行える手続きもありますので、円滑に相続手続きを進めることが可能です。
さらに弁護士などの専門家に依頼することで、より透明度の高い手続きをすることが可能になります。
不安な方は専門家である弁護士等に相談することをおすすめします。

遺言執行者を選任するデメリット

遺言執行者は選任することで、複雑になりやすい相続手続きの負担を軽減することができるメリットがあります。
一方で遺言執行人を選任することによるデメリットをご紹介します。

デメリット①様々な手続きと専門的な知識が必要

相続手続きは複雑かつ専門的な知識が必要とされています。
ただし相続の基本的知識はもちろんですが、経験があまりない専門家に依頼をしてしまうと円滑に進めることができなくなってしまいます。

デメリット②執行者に報酬費用が必要となる

専門家が執行者として選任された場合には、報酬を支払う必要があります。
遺言書に記載されていればその金銭を、執行者に支払う必要がありますが明記がされていない場合には次の2通りで決定します。

  1. 相続人全員で報酬額を決める
  2. 遺言執行者が家庭裁判所へ申出を行い金額を決める

専門家に依頼する場合には、別途手数料などがかかる可能性があります。

選任の決め方は大きく分けて3つ‼

遺言執行者を選任する方法は大きく分けて3つあります。

  1. 遺言書で被相続人が選任する
  2. 相続人が専門家を選任する
  3. 家庭裁判所が選任を行う

主に上記3点の中で遺言執行者は選任されます。

1.遺言書で被相続人が選任する

遺言執行者を選任する場合で一般的な方法は、遺言書での指定です。
被相続人が遺言執行人を誰にするのかを決めて遺言書に記載をします。
遺言書に記載する場合には、『遺言者は、遺言執行者として長男山田一郎を指定する』と被相続人との続柄と名前を記載して誰を指定するのかを明確にしましょう。

2.専門家を選任する

遺言書に執行者を指定する旨の記載がない場合には、専門家に選任することも可能です。
相続人を執行者として指定することも可能ですが、専門家でない場合は手続きがスムーズに進まないことや指定された相続人が有利に進めようとしていないかなど懐疑的な目を向けられる可能性があります。
そのため第三者かつ専門的知識と経験を持っている弁護士や司法書士などの専門家を選任することで、手続きを公平かつスムーズに進めることが可能です。

3.家庭裁判所が選任する

1・2でご紹介した選任方法でも決められない場合には、申立書類を作成し家庭裁判所に選任を行ってもらうことも可能です。
また辞退や辞任によって執行者がいない場合も家庭裁判所で選任します。

申立に必要な書類

家庭裁判所で執行者の選任を行う場合は、以下の書類を用意しましょう。

  1. 申立書
  2. 被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本(除籍・改製原戸籍謄本)
  3. 遺言執行者の候補となる人の住民票または戸籍附票
  4. 遺言書の写しまたは検認調書謄本の写し
  5. 利害関係を証明する資料
  6. 800円分の収入印紙

選任までの流れ

家庭裁判所に選任をしてもらう場合の流れは以下の通りです。

  1. 申立書類の用意
  2. 家庭裁判所へ提出
  3. 家庭裁判所より審判書が執行者へ通知される
  4. 指定された場合は遅滞なく相続人へ通知を行う

参照:裁判所 遺言執行者の選任
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_18/index.html
(2024年1月22日 利用)

遺言執行者は辞退・辞任することが可能

遺言執行者に指定されてしまった場合でも「知識もないし時間もないからできる自信がない」と考えてしまう方も多いのではないでしょうか。
遺言執行者に選任されてしまった場合でもやめることが可能です。
ただし、やめる場合には辞退と辞任に分けられそれぞれ異なる手続きが必要になります。
簡単に辞退と辞任の違いについてご紹介します

辞退就任する前にやめること
辞任就任した後にやめること

就任の前後によって手続きが異なります。

辞退する場合

執行者になる前に辞退する場合には、他の相続人にやめる意思表示だけで問題ありません。
明確に様式などはありませんが、書面にして辞退する旨を伝えましょう。

辞任する場合

一度執行者に就任してしまった場合には、家庭裁判所での手続きが必要になります。
辞任するためには、家庭裁判所にて『正当な理由』を認めてもらい辞任許可審判書を交付してもらわなければなりません。

正当な理由とは?

ここでの正当な理由とは、[遺言執行者として責務を行うことができない合理的な根拠がある場合]のことを指します。
例えば病気・高齢・仕事が多忙・業務量は正当な理由として認められるケースがあります。
そのため「やる気がなくなった」「職務が難しいからやめたい」という、理由だけでは認められない場合があります。
ですが、正当な理由と判断するのは裁判所であるため不安な方は初めに辞退するか専門かに相談しながら進めることをおすすめします。

必要なケースとは?

実際に遺言執行者が必要になるケースはどのようなケースなのでしょうか。
今回は特に執行者を指定しておくべきケースをご紹介します。

相続人廃除がある場合

一部の相続人の相続権を剥奪する相続人排除は、生前に被相続人が家庭裁判所に申立をすることで可能ですが、遺言書でも行うことができます。
遺言書での相続人廃除は遺言執行者しか行うことができませんので、選任する必要があります。

子の認知がある場合

婚姻関係のない男女間で生まれた子(非嫡出子)は法律上親子関係はありませんが、親が認知をすることで法律上の親子関係を成立させることが可能です。
遺言書によって子の認知をすることも可能ですが、被相続人が亡くなっている場合には遺言執行者でしか認知の届け出をすることができませんので選任をしましょう。

遺言執行者が不要なケースもありますので、ご自身に必要であるのか判断することが難しい場合には専門家に相談することをおすすめします。

不安をあんしんに変える相談

相続が起きても家族みんな仲が良いから揉めない・うちにそんな財産はない。
そう感じる方もいらっしゃいますが、実はそのような方が相続や認知症で困ってしまうケースが多くあります。
何度も経験するものではない相続だからこそ、被相続人が目指す相続はどのような相続なのか。そのために相続人のあなたに何ができるのか・被相続人のために何をしたら良いのかわからなくなりがちです。
私たち相続ぽるとが「相続の最適な入り口」としてみなさまが安心して相続対策を進められるように支えます。
不安が安心に変わるチャンスを逃さないためにもお気軽に相続ぽるとへご相談下さい。

記事のまとめ

今回は、被相続人が作成した遺言書の内容を実現するために様々な手続きを行う遺言執行者についてご紹介しました。
相続の手続きは複雑かつ書類を用意するのに時間や労力がかかります。
執行者を選任しておくことで手続きをスムーズに進めることが可能です。
さらに執行者でしか行えない手続きもあるため、相続人廃除や子の認知などを検討している方は選任することをおすすめします。
ただし選任することによって別途費用がかかることもあります。
そのため自分には執行者を選任しておくべきか・しておかないべきか迷われている方は、一度専門家に相談し検討をともにしていくことをおすすめします。