農地を相続することになった場合は何をする?手続きや評価方法を解説

農地の相続は手続きが複雑なため専門家に相談を!

被相続人が保有していた財産の中に、農地がある場合があります。
農地とは、耕作の目的に供される土地のことであり、農業などで農作物を育てている土地や耕運機などの農機具で管理している土地のことです。
それらの財産を引き継いだ際には、相続手続きを行う必要がありますが、通常とは異なる手続きが必要になります。
本記事では、相続時に農地を引き継ぐことになった場合に必要になる手続きを中心に評価方法や活用することのできる特例についてご紹介します。
親が農業を行っている方や手続きについて知りたい方はぜひご参照ください。

相続時に必要になる手続き

実際に相続によって農地を引き継ぐ事になった場合には、3つの手続きを行う必要があります。

  • 相続税の申告納付手続き
  • 法務局への相続登記手続き
  • 農業委員会への届出手続き

上記の3つが必要になります。
農地は通常不動産の一つとして扱われますが、不動産の中でも特殊な位置づけがされています。
それは、食料の安定供給に関わるためです。
そのため通常の相続とは別に、特別な手続きをしなければ、安心することはできません。

相続税の申告納付手続き

まず1つ目は相続手続きです。
こちらは農地だからといって特別な手続きをしなければならないわけではありません。
行政上の手続きから、遺産・相続人の調査・遺言書の確認などを行います。
その際には、相続開始から10ヶ月以内に管轄の税務署で申告納付手続きを行う必要があります。

基礎控除

相続税には、基礎控除枠が設けられており基礎控除枠を超過しない限りは、納付する必要はありません。
相続税の基礎控除は、以下のように定められています。

3,000万円+(600万円×法定相続人の数)=相続税の基礎控除枠

実際の手続きや計算方法に関しては、今回は割愛しますが財産の状態や評価方法・どの相続人がどの割合を引き継ぐのかで金額が異なりますので、不安な方は税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

法務局への相続登記手続き

相続登記とは、不動産を引き継いだ際に必要になる所有権移転登記(名義変更手続き)のことです。
農地も不動産として扱うため、引き継ぐ事になった際には必要な書類を準備し、登記手続きを行う必要があります。

書類

相続登記を行う際には、以下の書類が必要になります。

書類名取得先
被相続人の戸籍謄本・住民票附票市役所
相続人の戸籍謄本・住民票市役所
不動産の価格が分かる書類(固定資産評価額証明書)毎年納付書が届く
印鑑証明書市役所
遺言書または遺産分割協議書の写し 
登記申請書法務局

費用

農地に限らず不動産を引き継いだ場合には、登記手続きを行わなければなりません。
登記手続きには費用が必要になります。

  • 登録免許税
  • 書類の発行費用

上記の費用が必要になります。
登録免許税とは、登記時に必要になる税金です。
書類の発行費用は、全国一律で決められている書類と市区町村によって費用が異なる書類があります。

登録免許税固定資産税評価額×0.4%
書類の発行費用戸籍謄本などは一律450円・住民票や印鑑証明は異なる

期限が設置されています

農地を含めた不動産の相続登記には、期限が決められています。
相続発生から3年以内には、登記手続きを行わなければならず3年を経過してしまった場合には、行政上のペナルティとして過料が科される可能性がありますので、必ず期限以内に手続きをしましょう。

農業委員会への届出手続き

農地を引き継いだ際に行う特別な手続きは、農業委員会への届出が必要なことです。
農業委員会とは、農地法に基づく事務を担当しており法律で定められた組織です。
売買や相続、後にご紹介する転用になどによって、所有権が移転した場合には委員会への届出の手続きが必要になります。
前述でご紹介している通り、農地は食料の安定供給に関わる重要な土地になるため、勝手な売買や開発などを行わないように農業委員会が設立されています。
相続などによって農地の所有者が変更される場合には、農業委員会に届出を提出する必要があります。
農業委員会は、各市区町村に設置されています。

必要書類

実際に農業委員会に提出する書類は以下の通りです。

  • 届出書
  • 登記事項証明書

届出書は、農業委員会の窓口またはHPからダウンロードをすることができます。
登記事項証明書とは、不動産の所有者や権利関係などが記載されている書類のことです。
この書類は所有権が変更された後(相続登記をした後)発行する必要があります。

届出にも期限がある

相続登記と同じように、農地を引き継ぎ農業委員会に書類を提出する際には、期限があります。
期限は相続登記を下から10ヶ月以内に手続きを行う必要があります。
10ヶ月以内に届出の手続きを行わない場合や虚偽の届出を行った場合には、十万円以下の過料が科されます。

参照:e-Gov 法令検索 農地法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=327AC0000000229

農地の種類と評価方法

実際に農地を引き継ぐ際には、前述でご紹介した相続税の申告の納付手続きを行わなければなりません。
相続では、財産一つ一つの評価額を計算して相続税の計算を行います。
農地でも評価額を算出しなければなりませんが、農地には5つ種類がありそれぞれ評価方法が異なります。
ここでは、5つの農地とそれぞれの評価方法をご紹介します。

  • 市街地農地
  • 市街地周辺農地
  • 生産緑地
  • 中間農地
  • 純農地

市街地農地

市街地農地とは、市街化区域にある農地のことを言います。

この土地は、農地以外の用途に転用しやすいのが特徴です。
家屋や商業施設などが密集した栄えている土地の他にも、今後開発が進んでいく区域のことを市街農地と言います。

評価方法

市街地農地の評価方法は、次の2つの中から評価額を算出します。

  • 宅地比準方式
  • 倍率方式

基本的に上記の2つの方法のどちらかで評価額を算出します。
市街化区域以外と地域に農地がある場合には、宅地比準方式を活用します。
逆に市街化区域内に農地がある場合には、倍率方式を活用して評価額を算出します。
具体的な計算方法は以下の通りです。

評価額算出方法計算式
宅地比準方式[農地が宅地であると仮定した際の1㎡の評価額-転用に必要な1㎡の造成費]×地積
倍率方式固定資産税評価額×倍率

宅地比準方式の宅地であると仮定した際の評価額とは、農地が路線価地域にある場合には路線価×調整率で計算することができます。
転用に必要な造成費(宅地以外の土地を宅地にするためにかかる費用)は、国税庁のHPに掲載されています。

市街地周辺農地

市街地周辺農地とは、市街地農地とは異なり、宅地に転用する際には農業委員会の許可がなければ宅地として活用することのできない土地のことを市街地周辺農地と言います。
市街地周辺農地は、宅地への転用をする際には委員会の許可がなければ宅地として利用することができません。

評価方法

市街地周辺農地の評価方法は、市街地農地とは異なる計算方法で算出します。
周辺農地は、許可がなければ宅地として活用することができません。
許可を取るためには、別途手続きが必要になりますので市街地農地よりも評価額が低くなるように計算をします。
しかし、許可を得て届出を農業委員会へ提出すると宅地として利用できる場合には評価額の減額はできません。

市街農地とした場合の価額×80%=評価額

市街地農地とした場合の計算方法は、前述でご紹介した宅地比準方式または、倍率方式で計算をした金額になります。
許可を得れていない場合には20%減額をすることができます。

生産緑地

生産緑地とは、良好な都市環境を形成するために農地の緑地として機能を活かし計画的に農地を保全する制度のことであり、指定された農地のことを生産緑地といいます。
もう少しわかりやすくご紹介すると、都市計画が進んでいくと農地が徐々に減少する問題が発生してしまいます。
そこで、都市開発や転用に制限をかけることによって農地の減少を防止するために活用するのが生産緑地です。
生産緑地と指定された場合には、農業生産を目的とした利用が義務付けられる反面、税制面での優遇を受けることができます。

評価方法

生産緑地の相続税の評価方法は以下の計算で算出します。

生産緑地と仮定しない場合の価額×年数などによる一定の割合=評価額

中間農地

中間農地とは、農地の一部が耕作に適さないために利用されていない場合の土地のことを指します。
山間部や丘陵地帯などに多く見られ地形や土壌の条件が悪いため農業生産が難しい土地とも言われています。

評価方法

中間農地を相続によって引き継いだ際には、以下の計算方法で算出します。

固定資産税評価額✕倍率=評価額

純農地

純農地とは、農業生産に専念するために利用されている土地のことを純農地といいます。
この土地は、農業以外の用途で利用されることはありません。
また、純農地とされる土地には、農地法や農業振興地域整備法などの法律によって保護されているため、原則、住宅や商業施設・工業施設などへの転用をすることはできません。
この土地は、都市計画が進む中で安定した食料生産や自給率の向上などを実現するための基盤となります。

評価方法

純農地を相続によって引き継いだ場合の評価方法は、以下の通りです。

固定資産税評価額✕倍率=評価額

純農地を相続で引き継いだ際には、中間農地と同じように倍率方式を活用して相続税の評価額を算出します。

評価方法は複雑な計算が必要になるため必ず専門家に相談をしましょう。

農地の納税猶予の特例

農地を相続によって引き継いだ後に考えることは、その農地をどのように活用するかです。
引き継ぐ農地によって、転用(住宅の土地に変換する)ができる土地とできない土地がありますが農業を引き続き続ける場合と農業をしない場合のどちらになるのかを考えなければなりません。
仮に農業を継続して行う場合には、農地の相続に課税される相続税が猶予される特例があります。
この特例のことを[農地の納税猶予の特例]といいます。
この特例は、一定の要件を満たした場合には農地にかかる税金が猶予され、最終的に相続人が亡くなるまで農業を続けていた場合には相続税が免除される特例です。

適用要件

農地の納税猶予の特例を適用するためには、一定の要件を満たさなければならないとご紹介しましたが、どのような要件が必要になるのでしょうか。
要件は、被相続人・相続人・農地の要件を満たす必要があります。

被相続人の要件

農地の納税猶予の特例を活用するために必要な被相続人の要件は以下の通りです。

  • 相続発生時(死亡時)まで農業を行っていた
  • 生前に農地を贈与した
  • 相続発生時まで農地の貸付を行っていた

上記のいずれかの要件を満たす必要があります。
貸付にも2種類あり、障がいや病気などにより農業の経営が困難になった場合に、届出を出すことで他人に貸し付ける営農困難時貸付。
市街化区域外の農地を法令に基づき貸し付ける特定貸付の2種類があります。

相続人の要件

農地を引き継ぐ相続人にも要件があります。

  • 被相続人から生前に農地を引き継いでいる
  • 相続税の申告納付期限までに、農地を引き継ぎ農業を営んでいる
  • 相続税の申告納付期限までに、特定貸付を行っている

上記のいずれかを満たすことができれば納税猶予の特例を活用することができます。

農地の要件

納税猶予の特例を活用するためには、被相続人・相続人だけではなく農地にも要件があります。

  • 相続税の申告納付期限までに、遺産分割がされている農地
  • 相続開始の年に生前贈与されていた農地
  • 贈与の納税猶予の特例を適用している農地

相続税の申告納付期限までに遺産分割が完了している農地とは、相続税の申告期限である10ヶ月以内に、遺産の分割方法(誰が・どの財産を・どの程度引き継ぐのか)が決まっていることを言います。

手続きの流れ

農地の納税猶予の特例を実際に活用する場合には、どのような手続きが必要になるのでしょうか。
手続きは以下の通りです。

  1. 相続税の申告の準備をする
  2. 特例を活用するために必要な書類を準備する
  3. 相続税の申告時に、特例を適用するための書類を合わせて提出する

上記の流れが必要になります。
今回は特例を適用するために必要な手続きの流れをご紹介しましたが、相続税の申告納付手続きには遺産分割や財産の特定などの手続を行わなければなりません。
そのため弁護士や税理士に相談することをおすすめします。

必要書類

前述で、猶予の特例を適用するために必要な書類を準備する。とご紹介しましたが実際にはどのような書類が必要になるのでしょうか。

書類は、以下の通りです。

書類名入手先
相続税の納税猶予に関する適格者証明書(農業委員会発行)設置されている農業委員会
相続税の納税猶予に関する届出書(特定貸付の場合)国税庁HP
担保とする財産の詳細書などの書類 

これらの書類を、相続税の申告納付時に提出します。

3年ごとに継続届出書を農業委員会に提出する

納税猶予の特例を活用する場合には、3年ごとに継続届出書を作成し、農業委員会へ提出をしなければなりません。
継続届出書を提出しない場合には、猶予されていた相続税と利子分を納付しなければなりませんので、注意しましょう。

農地を相続したあとの活用方法

農地を相続した後には、どのような活用方法があるのでしょうか。
ここでは一般的に考えられる、農業を継続しない場合の活用方法をご紹介します。
引き続き農業を営む場合には、前述でご紹介した手続きを行い農業を継続します。
農業をしない場合の活用方法は以下のとおりです。

  • 売却
  • 住宅地へと転用
  • 国庫へ帰属
  • 相続放棄

売却

まず1つ目は、農地を売却することです。
自身が農業を経営しない場合は、住宅地へと転用した場合でも売却することも考えられますが住宅地として需要が少ない地域の場合には、農地として売却をするしかありません。

売却できる相手は決まっている

実際に農地を売却する際には、売却できる相手は限られています。
売却が可能な相手は以下の通りです。

  • 常時農業に従事できる法人
  • 営農計画を持っている法人

上記のような適格者法人に限定されます。
さらに、売却を行う際には、農業委員会への届出による許可が必要になります。

住宅地へと転用

2つ目は、住宅地への転用です。
転用とは、土地の用途を変更することであり農地から住宅地に変更するなどのことを転用といいます。
転用をして、住宅地にすることで収益不動産を建設することや、住宅地としての売却をすることができます。
しかし、住宅地への転用には、農業委員会への転用の届出をしなければなりません。

国庫へ帰属

相続した農地を売却や転用に活用しない場合には、国庫へ帰属させる相続土地国庫帰属制度という制度を活用しましょう。
この制度を活用することで、土地を国に引き取ってもらう事ができます。
精度を活用する場合には、農業委員会ではなく法務局への申請が必要になります。
申請には審査があり、却下されると帰属させることはできません。
具体的な要件に関しては、法務省などのHPに詳しく記載されていますので、気になる方はチェクしてみましょう。

相続放棄

転用・売却・国庫への帰属が難しいと感じる場合には相続放棄を選択することも一つです。
相続放棄とは、相続に関わる一切の権利を放棄することを指します。
放棄をすることで、農地を引き継ぐ権利は無くなりますので売却や転用などを考える必要はなくなります。
しかし、放棄をした場合には相続財産は受け取れない点に注意が必要です。
農地だけ相続放棄をして、他の財産は受取る。というようなことはできませんので、農地という財産の一つではなく、相続財産全般を引き継ぐのか放棄するかを考える必要があります。

期限がある

相続放棄を選択するには期限があり、相続開始から3ヶ月以内に裁判所に申述書を提出しなければ放棄をすることはできません。
相続税の申告納付期限よりずっと前に、判断をしなければならない点に注意しましょう。

記事のまとめ

今回は、農業を営んでいる方が亡くなった場合の農地の相続手続きに関して詳しくご紹介しました。
農業を営んでいる方にとっては、農地の相続は魅力的ですが、経営していない方にとっては手続きに時間がかかります。
農地は、特殊な不動産のため、引き続き農地として活用する場合には税制上の優遇を受けることができます。
しかし、転用や売却などを行う際には、農業委員会への届出が必要などの制約もあります。
相続税だけであれば、税理士に相談することで解決しますが農地は特殊な不動産のため、司法書士や弁護士などの力も借りることが重要になります。
私たち相続ぽるとは、みなさんの不安や悩みに合わせた各種専門家をご紹介しております。
私たちに相談をすることで、各専門家に相談する回数などを減らすことができます。
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