認知症・相続対策となる家族信託のメリット・デメリットは?

家族信託のメリット・デメリットを理解したうえで利用するか考えましょう

相続の問題と密接に関係するのが認知症の問題です。
認知症になり判断能力が低下したとみなされると、法律行為ができなくなるため、生前贈与などの相続対策ができなくなります。
さらに資産が凍結されるため、親の財産を動かせなくなってしまいます。
そこで認知症・相続対策として家族信託を利用される人が増えています。
本記事では家族信託のメリット・デメリットから利用するべきケース・手続きの流れについてもご紹介しますので、家族信託について詳しく知りたい人はぜひご一読ください。

Contents
  1. 【おさらい】家族信託とは
  2. どんな場合に家族信託は効果的?
  3. 家族信託のメリット6選
  4. 家族信託のデメリット6選
  5. 開始までの手続きの流れ
  6. メリットがたくさんある家族信託は必要なの?
  7. 認知症・相続対策の相談、できていますか?
  8. 記事のまとめ

【おさらい】家族信託とは

家族信託は、一言でいうと親の財産を家族が管理する仕組みです。
保有している財産を[管理・運用・処分する権利]と[財産から得た利益を受け取る権利]の2つに分け、前者の[管理・運用・処分する権利]を信頼する家族に渡す契約です。
元気なうちに契約することで、親の身に何かがあった場合でも子どもが親の財産を管理・運用し続けることができます。

家族信託の仕組み

家族信託では以下の3者が登場します。

  1. 財産の管理・運用を家族に任せる「委託者」
  2. 財産の管理・運用を任された家族「受託者」
  3. 財産の管理・運用による利益を受け取る「受益者」

委託者が受託者に財産の管理を任せ、受託者が財産を管理・運用し、財産から得た利益を受益者が得る、というのが家族信託の仕組みです。
認知症対策としては委託者・受益者を親、受託者を子どもにすることが一般的です。
これにより親の財産を子どもが管理・運用し、得た利益を親が貰うことが可能です。

どうして今、家族信託が注目されているのか

家族信託という言葉に聞き覚えのない人がほとんどかもしれませんが、家族信託が注目されている理由に認知症の問題が挙げられます。
令和5年版高齢社会白書によると、2022年の日本の人口の29%を高齢者(65歳以上)が占めています。
2025年には高齢者の5人に1人が認知症になるといわれていることから、認知症になってしまう可能性は十分ある上に、今後さらに増加していくと考えられます。
そこで家族信託は元気なうちにできる認知症対策として注目が集まっています。

参照:令和5年版高齢社会白書(全体版) 令和4年度 高齢化の状況及び高齢社会対策の実施状況
第1章 高齢化の状況 第1節 高齢化の状況 1 高齢化の現状と将来像
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2023/zenbun/pdf/1s1s_01.pdf
(2024/03/19 利用)

どんな場合に家族信託は効果的?

家族信託は認知症対策として注目されていますが、具体的にどのような不安をもっている方に効果的なのでしょうか。
ここでは、家族信託を活用した方が良い場合を4つご紹介します。

  1. 親が認知症になっても財産を管理できる
  2. 親の代わりに収益不動産の管理が可能
  3. 二次相続対策として活用することができる
  4. 障がいのある子どもを支援したい

①親が認知症になっても財産を管理できる

親が認知症になると、金融機関は認知症の方の財産を保護するために一時的に取引に制限をかける資産凍結を行います。
資産凍結されると、以下のことが制限されます。

  • 銀行口座の入出金
  • 生命保険の保険金請求・解約
  • 不動産の売買・賃貸契約

家族信託を利用すれば、親が認知症になったとしても資産凍結されず、受託者である子どもが親の財産の管理を続けることができます。
認知症対策を考えている方は、家族信託を活用することで、資産凍結を防ぐことができます。

親の代わりに収益不動産の管理が可能

マンションやアパートなどの収益不動産を所有している場合、家族信託を活用することをおすすめします。
不動産の売却・賃貸借契約・建て替え・修繕などの行為は、法律行為になるため認知症になってしまうと行うことができません。
そこで家族信託を活用し、委託者・受益者を親。受託者を子どもにすることで万が一親が認知症になってしまった場合でも子どもの判断で売却や賃貸借契約、修繕などを行うことができます。

二次相続対策として活用することができる

一般的な相続対策と聞くと遺言書の作成ではないでしょうか。
遺言書は保有している財産の引継ぎ先を指定することができます。
しかし、遺言書で指定できるのは一世代。つまり自分の死後の財産の引き継ぎ先しか指定することができません。
仮に遺言書に「配偶者Aが亡くなった後の不動産は長男Bに相続させる」などと記載をしていたとしても、Aが同じ考えをしているのであれば問題ありませんが、考えが違う場合被相続人の願いを実現することはできません。
家族信託は、遺言書の弱点である財産の承継先を世代を超えて指定することができます。
家族信託は、委託者と受託者の契約になるため、信託が終了する時点での引き継ぎ先を予め指定することができます。
例えば、Aの死亡をもって信託契約を終了させその財産は長男Bに承継させる契約内容にしておくことで、生存中はAのために財産は管理され、亡くなった後は長男Bが取得することになります。
この仕組みを活用し、事前に財産の引継ぎ先を決めておくことで遺言書では実現できない財産の引継ぎ先の指定をすることができます。 

④障がいのある子どもを支援したい

子どもが障がいをもっている方は、自身が亡くなった時や認知症などになった時に生活をどのように守っていけば良いのか心配されているのではないでしょうか。
家族信託を活用することで、生活資金をサポートすることができます。
何度もご紹介しておりますが、認知症になってしまうと口座凍結によりお金の入出金や不動産の売却などを行うことができなくなります。
子どもの生活費を自身の口座から捻出しサポートをしている場合、口座凍結が起きてしまうとサポートをすることが難しくなります。
そこで兄弟姉妹がいる場合は、兄弟姉妹を受託者にすることで口座から出金することができるため、障がいをもつ子どもの経済面をサポートすることができます。
また収益不動産を所有している場合には、[障がいをもつ子どもを受益者にすることで収益不動産から得た利益(家賃収入)などを子どもに渡す。]このような契約内容にしておくことで子どもの経済面をサポートすることも可能です。

家族信託のメリット6選

ここまでで家族信託を利用するべきケースを4つご紹介しました。
これらの活用例が可能なのは、家族信託独自のメリットがあるからです。
ここでは家族信託のメリットのうち主要な6つをご紹介します。

  1. 委託者の判断能力が低下しても資産凍結されない
  2. 遺言書と同じ効果が期待できる
  3. 不動産の共有によるトラブルを回避できる
  4. 成年後見制度より柔軟な財産管理ができる
  5. 相続発生後の手続きがスムーズになる
  6. 受託者が破産しても信託財産は差し押さえされない

メリット①委託者の判断能力が低下しても資産凍結されない

前述でご紹介しましたが、財産を持つ委託者が認知症の進行などにより判断能力が低下すると資産凍結されてしまいます。
しかし家族信託であれば財産を管理・運用するのが受託者なので、万一委託者の判断能力が低下しても資産凍結されず、受託者の判断で財産の管理・運用を続けることができます。

メリット②遺言書と同じ効果が期待できる

親が元気なうちに遺言書を作成すれば、財産を誰に承継するのか事前に決めておくことができます。
家族信託では、受益者の死亡時、信託財産から利益を受け取る権利である「信託受益権」を他の人に移すことができます。
そのため、実質的に家族信託で遺言書と同じ効果を得られます。
ただし遺言書にしかできないこと、家族信託にしかできないことがあります。

 家族信託遺言書
一代目の相続の指定できるできる
二代目以降の相続の指定できるできない
子どもの認知・遺贈などできないできる

家族信託・遺言書の両方が次の相続をどうするか決めることが可能です。
ただし次の次の相続をどうするかについては遺言書で指定できませんが、家族信託であれば誰に承継させるか指定することができます。
遺言書にしかできないこともあります。例えば子どもの認知(血の繋がっていない子どもを血縁上の子どもと認めること)や遺贈(相続人ではない第三者に財産を渡すこと)です。

メリット③不動産の共有によるトラブルを回避できる

不動産の相続でなるべく避けたいのが、不動産の共有です。
不動産を複数の相続人で所有すると、建物の修繕・売却に所有者全員の同意が必要になります。
さらに所有者のうち1人でも認知症になってしまうと不動産を共有しているため資産凍結されてしまいます。
家族信託であれば、不動産を共有する必要がないのがメリットです。
収益不動産であれば、受託者を1人、受益者を複数人に指定することで、不動産から得た利益を複数人が受け取りながら、不動産の管理・運用を1人に任せることが可能です。

メリット④成年後見制度より柔軟な財産管理ができる

認知症対策としてよく取り上げられるのが成年後見制度です。
成年後見制度とは、判断能力が低下した人の財産を守るため、成年後見人という人に代わりに財産を管理してもらえる制度です。
ただし成年後見人は財産を守ることが原則なので、リスクが高い運用はできません。
また資産の組み換えができず、財産を動かしたい場合には都度家庭裁判所にて手続きをしなければならないといったデメリットが存在します。
家族信託であればハイリスクな資産運用や財産の売却を、委託者の意向に従って受託者の判断で行うことができます。
家族信託では、契約内容によりますが成年後見制度よりも柔軟な財産管理が可能な点がメリットです。

メリット⑤相続発生後の手続きがスムーズになる

相続発生時に家族がしなければならないことは複数ありますが、なかでも家族を悩ませるのが「残された財産をどうやって分けるのか」です。
もし遺言書がなければ、相続人全員で遺産分割協議を行い、財産をどう分けるのか決める必要があります。
ここで誰がどの財産を貰うのか揉めてしまうと、家族に余計な負担がかかり、相続の手続きが滞ってしまいます。
家族信託であれば相続発生前に財産をどのように分けるか事前に指定することが可能です。
相続発生後に遺産分割協議をする必要がなくなり、家族間での揉め事を避けることができます。
加えて、分けた財産をどのように管理するのかも決めることができるため、家族は相続の後も安心して財産を活用することができます。
このようにスムーズに相続手続きを進めることができる点は家族信託の大きなメリットです。

メリット⑥受託者が破産しても信託財産は差し押さえされない

仮に受託者が破産しても、家族信託で管理している信託財産が差し押さえられることがない点も家族信託のメリットの1つです。
ただし受益者が破産した場合、受益者が持つ信託受益権を差し押さえられる可能性があるため注意が必要です。

家族信託のデメリット6選

ここまで家族信託のメリットについてご紹介しました。
たしかに家族信託にしかないメリットは多数あり魅力的ですが、家族信託は万能ではなく、デメリットも存在します。
ここでは家族信託のデメリットを6つご紹介します。

  1. 身上監護権はない
  2. 受託者に財産管理の負担がかかる
  3. 家族間で不公平感が生まれやすい
  4. 家族全員の同意が必要
  5. 直接的な節税効果はない
  6. 遺留分を侵害する可能性がある

デメリット①身上監護権はない

家族信託はあくまで親の財産管理をする仕組みです。
家族信託を利用しても、受益者である子が委託者である親の医療・介護のための契約を行う身上監護権はありません。
親の生活の安全を守るためには、成年後見人をつけ、身上監護をしてもらう必要があります。

デメリット②受託者に財産管理の負担がかかる

受託者は委託者の財産管理を任されることになります。
委託者が信託した財産の規模にもよりますが、受託者は責任をもって財産の管理・運用をしなければなりません。
このように受託者に財産管理の負担が大きくかかる点は家族信託のデメリットです。
しかも管理・運用をするだけでなく、加えて財産の状況を委託者に報告する必要もあります。

デメリット③家族間で不公平感が生まれやすい

受託者は委託者の財産の管理・運用という大きな権限を持つことになります。
家族信託について知らない家族がいると、「受託者だけ莫大な財産を持っていてズルい」「内緒でお金を使い込んでいないか」というような不平・不満が出る可能性があります。
家族間で家族信託の仕組みを十分に理解することで避けることができますが、制度が難しいため、十分な理解を得られない場合このようなデメリットが生まれてしまいます。

デメリット④家族全員の同意が必要

家族信託は複雑な仕組みになっています。
家族信託を始めるためには、委託者や受託者を含めた家族全員が家族信託について理解し、同意しなければなりません。
家族信託は文字通り家族を信じて財産を託すものですので、家族から理解を得るのがとても重要になります。
家族全員で話し合っていくのは大変なので、デメリットといえるかもしれません。

デメリット⑤直接的な節税効果はない

家族信託は相続対策として利用されることがありますが、直接的な節税対策にならない点はデメリットといえます。
ただし委託者が元気なうちに始めた相続税対策を、委託者の判断能力が低下しても続けることができるため、間接的な節税効果は得られる場合があります。

デメリット⑥遺留分を侵害する可能性がある

家族信託で管理されている信託財産は受益者のものとして扱われます。
もし受益者の相続が発生すると、次の受益者は信託財産を相続したものとみなされます。
家族信託で扱う信託財産の額は大きくなりがちなため、相続時に他の相続人の遺留分(相続人が最低限貰える相続財産の取り分)を侵害する可能性がある点はデメリットといえます。

開始までの手続きの流れ

ここまでで家族信託のメリット・デメリットをご紹介しました。
それでは、家族信託を始めるには何をすればいいのでしょうか。
手続きは以下のような流れになります。

  1. 家族信託について理解を深める
  2. 家族で話し合う
  3. 信託の目的を決める
  4. 信託契約を締結する
  5. 財産の所有権を移転する
  6. 信託財産の管理・運用を開始する

①家族信託について理解を深める

家族信託は仕組みが複雑なので、まずは家族信託がどのようなものか理解する必要があります。
家族信託に関する記事や本を参考に、どういったものかおさえておきましょう。

②家族で話し合う

次に家族会議を開きます。
家族信託について知らない人のほうが多いと思われますので、家族全員が家族信託について理解した上で、本当に始めるべきか話し合いましょう。
ここで話し合っておくことで、先述したような家族間で不公平感が生まれるトラブルをなくすことができます。
そのため委託者・受託者・受益者になる人だけでなく、それ以外の家族の理解を得ることも重要になります。

③信託の目的を決める

家族信託をすることになったら、委託者は信託の目的を決めます。
例えば、以下のようなことを決めておきます。

  • 誰のために行うのか
  • どのような目的で行うのか
  • どのように管理・運用してほしいか

受託者は委託者が定めた信託の目的に従って財産の管理・運用を行うことになります。

④信託契約を締結する

委託者と受託者の間で信託契約を締結します。
手続き方法としては信託の契約内容を考え、信託契約書の原案を作成し、公証役場で公正証書として信託契約書を作成することになります。
公正証書の作成には信託財産の規模に応じた費用がかかりますが、第三者である公証人が作成するため、契約の正当性を示すことができます。
家族信託の契約内容は委託者が自由に決めることができますが、信託契約書の作成には法律の知識が必要不可欠です。
契約の内容が複雑になればなるほど、作成の難易度が上がります。
そのため司法書士などの相続に詳しい専門家と相談しながら作成することをおすすめします。

⑤財産の所有権を移転する

信託契約を締結したら、次は委託者の財産を移転します。
受託者は、受託者個人で所有する財産と信託財産が混ざらないよう分けて管理しなければなりません。

参照:e-Gov法令検索 信託法 第三十四条 分別管理義務
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=418AC0000000108
(2024/03/19 利用)

預貯金・証券の場合

預貯金・証券の場合、家族信託専用の口座である「信託口口座」を開設する必要があります。
信託口口座の開設には5~10万円ほどの手数料がかかります。
全ての銀行・証券が信託口口座開設に対応するわけではないため、事前に金融機関に問い合わせて確認しましょう。

信託口口座の開設が難しい場合、「信託専用口座」で代用することになります。
受託者個人名義の普通口座を新しく開設し、信託財産の管理を行うことになります。

不動産の場合

不動産の場合、登記されている名義人を委託者から受託者に変更する必要があります。
名義変更には登録免許税が課税され、土地の場合は固定資産税評価額の0.3%、建物の場合は0.4%の税率が課税されます。

⑥信託財産の管理・運用を開始する

信託口口座の開設・不動産の名義変更が済めば、信託財産の管理・運用ができるようになります。
信託契約の内容に従い、受託者は財産を管理・運用します。

メリットがたくさんある家族信託は必要なの?

ここまで家族信託を利用するべきケースやメリット・デメリット、手続きの流れについてご紹介してきました。
家族信託には、家族信託だからこそのメリットがたくさんあります。
とはいえ家族信託は万能ではありません。実際のところ家族信託は必要なのでしょうか。

初期費用はかかるが費用対効果は高い

ご家族によって状況は異なるため、必要な場合と必要ない場合があります。
家族信託は初期費用が高額になりやすいですが、その分費用対効果は高いです。
家族信託が必要なご家族にとっては最高の認知症・相続対策になる可能性が高いです。
本当に必要かどうかを知るために、まずは専門家に相談しましょう。

認知症・相続対策の相談、できていますか?

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認知症や相続は誰にとっても避けられない悩みの種ですが、ひとりで解決するには難しい問題でもあります。
その悩みを解決するためには、専門家のサポートが必要です。
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記事のまとめ

今回は家族信託のメリット・デメリットについてご紹介しました。
家族信託のメリットは数多く、認知症・相続対策として非常に有効です。
ただし、そのためにはデメリットを良く理解した上で利用を検討する必要があります。
ときには家族信託に強い専門家の力を借りながら、本当に家族信託が必要かどうか考えていきましょう。