相続時、遺留分侵害額請求の時効には気をつけて!

遺留分の時効はそれぞれ考え方が異なります

相続が開始され、相続人の確定や相続財産の確定などを行った際に遺言書が発見されるケースがあります。
被相続人が作成した遺言書の内容にて、不平等な遺産分割などがされていた場合には、他の相続人に不足分を請求することができます。
不足分のことを遺留分と言い、不足分を請求することを遺留分侵害額請求と言います。
しかし、その請求には時効と呼ばれる請求を行える期限があり、その期間を経過してしまうと請求をすることができなくなってしまいます。
本記事では、遺留分侵害額請求で注意しなければならない時効について詳しくご紹介します。
遺留分の侵害は、相続人であれば侵害される可能性はみなさん平等にあるため、相続手続きをスムーズに進めたい方はぜひ一度ご参照ください。

遺留分には時効があり1年・5年・10年

前述で遺留分には時効があり、期間を経過してしまうと受取ることができないとご紹介しました。
時効には3つの種類があり、それぞれの期限に注意しなければなりません。
時効の種類は、相続開始からの年数や請求をしてからの時効などと複雑です。
遺留分の時効の種類は以下の通りです。

  1. 侵害を知ってから1年
  2. 相続開始から10年
  3. 侵害額請求から5年

①遺留分の侵害を知ってから1年

1つ目は、相続開始と遺留分の侵害を知ってから1年です。
この期限を過ぎてしまうと、遺留分を請求できなくなってしまいます。
民法の条文では次のように遺留分の時効を定めています。
遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。

参照:e-Gov法令検索 民法第千四十八条
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089

上記のように定めています。

注意点

遺留分の時効は、相続開始または遺留分侵害を知ってから1年とご紹介しましたが、これは自動的に自然消滅するわけではありません。
実際には、他の相続人が時効を主張することによって初めて消滅(時効が成立)されます。
相手方の主張のことを、時効援用といいます。
そのため、1年を経過した後でも、他の相続人から時効援用がない場合には請求をすることが可能です。

かんたんにまとめると以下のようになります。

時効1年
起算点相続開始または遺留分を知った日から起算
その他自然に消滅するのではなく、時効援用があって初めて消滅する

②相続開始から10年

前述では、遺留分の侵害を知ってから1年以内に請求をしなければならないとご紹介しました。
時効援用がない場合には1年を経過したあとでも請求をすることができます。
しかし、時効には除斥期間と呼ばれる期限があり、この期限を過ぎてしまった場合には請求をすることはできません。
遺留分の除斥期間は民法では、10年と定められています。
除斥期間は、法律関係を速やかに確定させるために設けられている期限のため、この期限を過ぎてしまった場合には、時効援用などが無くても請求する権利を失います。

時効10年
起算日相続開始の日
その他期間を延長・中断・停止することはできない

③侵害額請求から5年

こちらは請求する権利ではなく、実際に請求をした後にある時効です。
遺留分侵害額請求は、「請求をしたら終わり」ではありません。
そこから相続人との話合いなどを行い、不足分を請求します。
話合いの結果、不足分を支払う際の金銭債権は、5年で消滅します。

時効5年
起算日遺留分侵害額請求を行った日
その他現在は5年だが、2020年3月31日までに請求していれば10年

法律の改正で期間が変更されている

現在は、金銭債権の時効は5年間と定められています。
しかし、2020年4月1日施工前の改正前の民法では、金銭債権の期間は5年ではなく10年となっていますので、合わせて注意しましょう。

遺留分侵害額請求の時効を防止する措置

遺留分の時効に関してご紹介してきましたが、遺留分の時効は最短1年で消滅してしまいます。
そのためには、早いうちに遺留分が侵害されているのかを見極めなければなりません。
「相続人同士身内だから、信頼している」と思っていても、遺言書の内容は開封するまで、内容がわかりません。
弁護士などの専門家に相談をすることで、どの程度侵害されているのかなどを把握することができます。
しかし、弁護士などに相談している間にも、遺留分の時効は進んでしまいます。
そこでここでは、時効の進行を防止するための措置を、それぞれの時効の特徴に合わせてご紹介します。

侵害額請求

遺留分の時効は最短1年で消滅してしまいます。
そこで、まず初めに行わなければならないことは、侵害されているということを他の相続人に伝えることです。
他の相続人とは、被相続人の遺産を引き継ぐ権利を有している相続人全員に周知をしなければなりません。
全員に対し、遺留分が侵害されているので、請求をします。という旨の主張をすることで、最短である1年の時効を止めることができます。
実際に遺留分侵害額請求を相続人に対して行う際の手続きに関しては、後述で詳しくご紹介いたします。

除斥期間

遺留分の除斥期間は、相続開始から10年経過した際には、請求する権利が消滅します。
除斥期間とは、一定年数が経過した場合において効果を発揮するものです。
そのため時効とは異なり、中断・更新・停止などを行うことはできません。
遺留分が侵害されており、相続人から時効援用の主張がない場合には10年以内に手続きを行わなければなりませんので注意しましょう。

金銭債権

金銭債権(ここでは不足している遺留分の金額)は、5年以内に請求されたものが金銭を支払わない場合には、消滅してしまいます。
遺留分は請求したら終わりではありませんので、注意しましょう。
また、2020年の民法改正によって金銭債権の消滅時効に関しては期間が異なります。
2020年3月31日までに、金銭債務の履行をしていない場合は、10年間となっています。

注意

相続人の中には、遺留分の請求に対して反応を示さない相続人が現れる可能性や、交渉がまとまらずに長期化する可能性があります。
相手方と連絡が取れない限り、受取ることはできません。
このような場合には、金銭債務期間の更新をする必要があります。
更新の方法は、相続人に対して裁判を提起することです。
裁判を提起することによって、時効を成立を防止することができます。

侵害額請求を行う際の手続き

実際に遺言書などで、特定の相続人に対して不平等な遺産分割が行われた場合には、遺留分侵害額請求を行うことができますが、請求をする際にはどのような手続きが必要になるのでしょうか。
ここからは、実際に侵害額請求を行う際に必要な手続きや重要な点についてご紹介します。
今回は、遺留分侵害額請求の手続きのご紹介のため、どのくらい遺留分が侵害されているのかなどの計算や相続手続き(相続税の計算)は割愛しております。
具体的な遺留分侵害額の計算方法などに関しては、弁護士などの専門家に相談すると良いでしょう。
そのまま必要な手続きを教えてもらうことや、アドバイスを受取ることができます。
実際に必要になる手続きは以下の通りです。

  1. 必要な書類を準備する
  2. 内容証明郵便で相続人に郵送する
  3. 話合い(協議)を行う
  4. 遺留分侵害額調停を申し立てる

①必要な書類を準備する

まず初めに必要なことは、書類を準備することです。
実際に遺留分侵害額請求には、相続手続きで活用するような被相続人の戸籍謄本などは必要ありません。
ここでの必要な書類とは、遺留分侵害額請求権を行使することを他の相続人に伝える書類のことです。
この書類は後述する内容証明郵便で、相続人に郵送する場合に非常に重要になります。
内容証明郵便には書き方があり、以下のように定められています。

区別字数・行数の制限
縦書きの場合1行20字以内、1枚26行以内
横書きの場合1行20字以内、1枚26行以内
 1行13字以内、1枚40行以内
 1行13字以内、1枚40行以内

書式など

書類には、権利の行使をする旨を伝えるだけのため、書式などは決められておりません。
そのため、上記でご紹介した字数制限のみ気をつけましょう。 「請求書」や「通知書」などの決まりもありません。
また、パソコンでも手書きでもどちらで作成しても構いません。
書類に関して不安な方は、弁護士を中心に行政書士などにも依頼することが可能です。

内容

実際に内容証明郵便で送信する際には、次の内容を加味した文章を作成しましょう。

請求する相続人の名前
請求された相続人の名前
請求日時
遺留分侵害額請求権の行使により、金銭を請求すること
請求対象となる相続財産・遺贈・生前贈与(特別受益)などが記載された遺言書

上記の要件を満たした上で、時効前に準備をしましょう。
1年経過するまでは、時効援用の主張を行うことはできませんので安心してください。
しかし、相続はこれ以外にも必要な手続きが多くあります。
そのため早めに弁護士などの専門家に相談をすることをおすすめします。

②内容証明郵便で相続人に郵送する

実際に、請求をする旨の文書の作成をした後には、内容郵便証明を活用して、相続人に郵送します。
内容証明郵便とは、「いつ・誰に・誰から・どんな内容の」郵便物が届けられたのかを、郵便局が証明してくれる郵便です。
遺留分侵害額請求は、口頭でも請求することはできます。
しかし、請求で問題になるのが「言った・言っていない」問題です。
「遺留分の消滅時効に該当しており、既に時効援用の主張をしている」「郵便物は届くけれども多いので郵送されているかわからない」などの相続人の主張をさせないために必要な手続きになります。

注意

内容証明郵便はあくまで、「いつ・誰に・誰から・どんな内容の」郵便が送られたのかを証明するための方法です。
そのため、書式や侵害額などを校閲し確認してくれるわけではありません。
あくまで内容を証明するための方法であり、記載されている内容が正しい・正しくないの判断をしてくれるわけではありませので、弁護士などに確認を取ってから、郵送するようにしましょう。

③話合いをする

何度もご紹介しておりますが、遺留分侵害額請求は、請求をしたら時効のことは考えなくて良いわけではありません。
金銭債務の時効(5年)があるため、期間に注意しながら話合いを行う必要があります。(改正前は10年)
金銭債務の時効が成立してしますと、請求をすることができなくなります。
初めは相続人同士で話し合うことが可能です。
相続人同士の意見を聞きながら、請求してもらえるのかを判断する事ができます。

この時点で弁護士を活用することもできる

実際に時効が成立するしないに限らず、侵害額請求では相続人同士の考え方が異なるので、長期間に渡る可能性があります。
そのような場合には、話合いの時点で弁護士を通して相続人同士の話合いを進めることができます。
相続人同士で揉めることがわかっている場合には、弁護士を活用しましょう。

④遺留分侵害額調停を申立てる

遺留分侵害額請求の話合いが相続人同士でまとまらない場合には、遺留分侵害額調停を提起することができます。
遺留分侵害額調停とは、調停委員が介入し相続人同士の意見を聞いて解決策などを提案する方法です。
実際に調停を行う際には、裁判所に書類を提出しなければ調停を行うことはできません。

調停に必要な申立書類

相続人が用意するべき必要な書類は以下のとおりです。

調停申立書
被相続人の戸籍謄本(出生から死亡までの記載があるもの)
相続人全員の戸籍謄本
遺言書の写し
相続財産の評価額が分かる書類

遺留分侵害額訴訟

調停でも相続人同士の意見がまとまらない場合には、裁判所に遺留分の金銭債務の履行を促す訴訟を起こす必要があります。
金銭債務は時効を迎えてしまうと、調停中などでも期間が停止するわけではありません。
更に民法の改正によって、請求できる期限は短くなっています。
そのため金銭債務の履行に相手の相続人がどうしても応じない場合には、訴訟を提起する必要があります。
訴訟を行う際には、訴状を改めて裁判所に提出をすることで、訴訟の準備を開始します。

時効について気をつけたいポイント

遺留分侵害額請求の手続きや時効の種類・対策方法などをご紹介しました。
ここでは実際の相続時に気をつけておきたい時効のポイントについてご紹介します。

①起算日の証明が難しい

1つ目は、遺留分侵害に起算点である日付を署名することが難しいことです。
民法では、「遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。」と記載がされています。
しかし、いつ侵害する贈与や遺贈などがあったかを明確化することは難しいです。
初めから、弁護士などの専門家に相談しながら相続手続きを進めている場合には、遺留分の侵害されている起算点などを確認することができますが、相続人で協力して行っている場合には、起算日の証明が難しい可能性があります。
そのため、相続開始から1年以内に、遺留分の侵害を判断をして内容証明郵便で他の相続人に知らせるようにしましょう。

②遺言書の無効主張時にも時効期限は進む

2つ目は、時効の期限についてです。
遺留分が侵害されている場合には、時効が成立(時効援用の主張などを除く)するしないに限らず、不平等な分割方法が記載されている遺言書が無効であることを主張することがあります。
遺言書が無効と判断された場合には、時効に関係なく相続人全員で話合いを行い、遺産分割協議をすることができます。
しかし、これは相続人全員の許可が必要になりますので、誰か一人でも反対をすれば、遺言書の無効に関して相続人同士で争う可能性があります。
ここで注意しなければならない点は、「遺言書の無効争いでも時効は進行する」という点です。
遺言書の無効などを主張しても時効は進行するため、弁護士などに相談をし遺留分侵害額請求の準備をしておくと安心です。

遺留分の相談はどこにする?

遺留分の時効について詳しくご紹介してきました。
時効には様々な種類があり、それぞれ期間や対策の有無などが変わります。
わかりやすくご紹介していますが、遺言書の無効との兼ね合いやそれぞれの時効に対する考え方や起算点など、遺留分の時効は複雑になっています。
また、時効だけを考えていればいいわけではなく遺言書の無効主張や、今回は割愛した通常の相続手続きなど、やらなくてはならないことが多いです。
実際に、ご自身の遺留分が侵害されている場合には、どこに相談するのが良いのでしょうか。

  • 相続ぽるとへご相談
  • 弁護士に相談

相続ぽるとへご相談

私たち相続ぽるとでは、みなさまのお悩みに合わせて必要な専門家をご紹介しております。
相続時には、行政上の手続き・財産の評価・相続税の計算・名義変更手続きなど各専門家ではないと対応できないような手続きが多くあります。
不動産は司法書士・相続税や預金は税理士・遺留分は弁護士などと、それぞれの専門家に連絡をしなければ解決することが難しい場合があります。
各種専門家の相談先を一つにすることで、相続手続きをスムーズに進めることができるだけではなく、適切なアドバイスなどをご提案しております。
初回無料相談を受け付けておりますので、お気軽にご相談ください。

弁護士に相談

相続は一般的に弁護士に相談されるケースが多いです。
弁護士であれば、遺産分割時にトラブルにならないように介入することや、今回のような遺留分の時効に関する手続きなど、相続全般のサポートを受けることができます。
各財産(預金・車・証券等)の名義変更手続きのサポートを受けることはできますが、不動産などの相続登記に関しては弁護士では対応できない可能性が高いです。
弁護士は法律のプロです。
改正された法律などにも詳しいため、相談することで大きなメリットを得ることができます。

遺留分侵害請求の時効だけに関わらず、相続全般のサポートを受けたい場合には、私たち相続ぽるとへご相談ください。
弁護士などの専門家も必要に応じて、ご紹介しております。

記事のまとめ

今回は、相続時にトラブルになりやすい遺留分の時効について詳しくご紹介しました。
時効が成立してしまうと、不平等な分割をされた相続人はできることがありません。
今回時効について詳しくご紹介しましたが、ご紹介したように時効の考え方などは複雑になっています。
そのような中でもし迷ってしまった場合には、お近くの弁護士などの専門家に相談することを視野に入れておくと良いでしょう。