【事例から学ぶ】相続時に遺言書が無効になる場合に注意!

遺言書は万能ではなく無効になるケースもあります

相続は事前の準備が大切!と聞いて遺言書を調べながら作成する方も多いのではないでしょうか。
「遺言書があれば相続で問題はない」と思われる方でも内容の不備や、遺言書を書いた人の健康状態によって遺言書が無効になってしまう可能性があります。
本記事では、遺言書のおさらいから遺言書が無効になってしまった事例を2つご紹介します。
無効になる遺言書を作りたくない方・万が一のときのために無効にできるやり方を知りたい方はぜひご一読ください!

遺言書とは?

まず遺言書のおさらいからです。
遺言書とは、相続の際に預金や不動産などの遺産の分け方を指定する事ができ法定相続人以外の人に財産を渡せる(遺贈)を行う事が可能な書類です。
遺言書と聞くと種類があることは知っているかと思います。
遺言書には3つの種類があります。

  1. 公正証書遺言
  2. 自筆証書遺言
  3. 秘密証書遺言

公正証書遺言

公正証書遺言とは公証役場で作成する遺言書であり、公証人2名が立ち会いのもと作成します。
公正証書遺言はプロの証人のもと作成されているため、遺言書が無効になるというケースが起こりにくいことが大きなメリットです。
また、作成した公正証書遺言は公証役場で保管されるため第三者による遺言書の改ざんによる無効などが起こりにくいこともメリットと言えます。
しかし公証役場までの移動費や手数料・依頼する専門家によって別途報酬がある場合などの費用デメリットなどが挙げられます。

自筆証書遺言

自筆証書遺言とは、被相続人が自ら作成する遺言書です。
公正証書遺言などの公証人が必要なく、費用もかかりません。
内容の変更等が可能なためいつでも作成できる事が大きなメリットです。
ですが公正証書遺言のように保管してくれる場所はなく自ら保管しなければならないため、遺言書の存在を知らせていない場合、自らの意志が反映された遺産分割をすることができなくなります。

秘密証書遺言

秘密証書遺言とは、遺言書の内容を秘匿できる遺言書です。
自筆証書遺言と同じく自ら作成・保管をします。
秘密証書遺言は、公証人に秘密証書遺言だということを証明しなければなりません。
遺言書の内容は作成した本人しか確認する事はできず公証人を含め相続人は相続が発生するまで遺言書の中身を知ることはできません。
そのため中身の改ざんを防げる事や相続時に誰が書いた遺言書かを確認する必要がないというメリットがあります。
一方で手数料がかかる事や遺言書の内容に不備があると無効になってしまい臨んだ遺産分割ができない可能性がありますので注意しましょう。

各遺言書にはそれぞれ守らなければならない点がありますので専門家に相談することをおすすめします。

正しい書き方をしなければ無効になることがあります。

遺言書には無効になるケースがあります。
大きく分けて3つに分けることができます。

  • 作成方法による無効
  • 判断能力による無効
  • 遺言者の意図しないため無効

作成方法による無効

遺言書は相続において大きな効力を持っています。
そのため作成方法や方式にミスがあった場合には、無効になります。
無効になる要件は以下の通りです。

  • 日付が不明
  • 遺言者の押印・署名がない
  • 不確定な内容
  • 訂正方法が民法に則っていない

ご紹介したのは一部の無効になる作成方法です。
ご自身で判断ができない場合には、専門家に相談することおすすめします。

判断能力がないため無効

認知症等の場合は、その人に判断能力(契約行為など)が低下していると判断されます。
この場合の遺言書は無効になるケースがあります。

遺言者の意図しないため無効

遺言者が第三者に唆されていたり、一方的な脅迫を受けて作成した書類は無効になります。

【番外編】開封してしまった場合

遺言書は大きな効力を持つ書類です。
そのため、どんな内容が書かれているのかを知りたいあまり、勝手に開封してしまうケースがあります。
しかし個人の判断で見つけた遺言書を開封してしまうと罰金が課される可能性があります。
そのため、遺言書を発見した場合には開封せずに家庭裁判所に持ち込み検認を行ってもらいましょう。
お住まいの裁判所(https://www.courts.go.jp/courthouse/map/index.html

訴訟事例その1 脳梗塞による遺言書無効判決

遺言書を書いたのは、男性(=被相続人A)で63歳の時に脳梗塞を発症し、その後80歳で亡くなりました。遺言は、73歳の時の日付で作成された遺言書でした。
相続人のうちの一人が、被相続人Aは63歳で脳梗塞を発症し、その後右半身麻痺の後遺症が残りました。そのため、文字を書くことが難しく、遺言書が相続人や親戚に宛てた年賀状では、被相続人Aの筆跡とは異なると主張し、遺言書が無効であるとして、訴訟を起こしました。
遺言の筆跡と遺言者が作成したとされる文書の筆跡とを比較対照し、裁判所では、4つのポイントから判決が出されました。

事例のポイント

  1. 遺言書の筆跡が妻に酷似していること。
  2. 被相続人Aが亡くなる前に相続人や親戚に宛てた年賀状は、ふるえた字で記載されており、被相続人Aの手によるものとも推認し得る筆跡であること。
  3. 各年賀状はいずれも被相続人Aの名前が漢字で書かれていないのにも対し、遺言書では名前が漢字で書かれていること。
  4. 脳梗塞から10年になり亡くなる前も右半身に麻痺がある旨の記載がなされているところ、この記載内容は被相続人Aが63歳の時に脳梗塞を発症した事と時期的に整合していること。

各年賀状における筆跡こそが被相続人Aの筆跡であった可能性が高いとされ、遺言書は被相続人Aの自筆によるものとは認めらませんでした。
妻もしくは第三者による遺言書である可能性があるとされ、遺言書としての効力を持たないことから無効であると判決されました。

訴訟事例その2 認知症による遺言書無効判

Aさんは、86歳の時に自筆証書遺言を作成しました。「遺言状 私、Aは、土地建物預金現金を長男Y1にゆずる。平成21年12月4日」という簡単な内容の遺言書が残されていました。
Aの相続人は、子供の5人で、次男と次女が他の相続人に対して遺言書無効だと訴訟を起こしました。
一審では、「遺言書の内容が簡単な内容であったため、相続をさせる事を理解している。」などの理由から被相続人Aが書いた自筆証書遺言を有効だと判決を下しましたが、二審の控訴では、4つのポイントから遺言書を無効と判断しました。

事例のポイント

  1. 被相続人Aは、日常生活では、ある程度自立しているものの、火の消し忘れや妄想や物忘れがしばしば生じており、相続人が銀行や郵便局からお金を勝手に卸してきた。などの妄想も短期間のうちに繰り返していた。
  2. 郵便局において、平成22年当初までに、認知症によって被相続人Aが要領を得た会話ができなくなり、被相続人Aだけでは、貯金の払戻しも困難な状態となっていたため、単独で郵便局に訪れた場合には、貯金の払戻しをさせず、相続人の誰かが同伴している場合に限って貯金の払戻しを可能とする取扱いを始めていた。
  3. 平成22年1月19日に被相続人Aを診察した医師は、認知症の疑いで紹介状を作成し、紹介先の病院の医師及び同月17日に被相続人Aを診察した医師は、いずれもアルツハイマー型認知症(若年性認知症)と診断をしていた。
  4. 本件遺言書の作成は、相続人のうち1人が被相続人Aに、その内容も口授したものを、被相続人Aが作成したものである。

遺言書が作成された平成21年12月4日において、被相続人Aは認知症によって、自己の財産状況を把握、処分することが難しいと認められることから、被相続人Aが平成22年12月4日に作成した遺言書は、無効であると判決がくだされました。

2つの訴訟事例はどちらも判決として判断されましたが、場合によっては判決が異なる可能性もあります。
また、今回は2件の事例とも自筆証書遺言の場合の事例でしたが公正証書遺言や秘密証書遺言でも事例があります。
他の判例・事例が気になる方は裁判所-裁判例で検索してみてはいかがでしょうか。

事例のような認知症や脳血管障害になるとこんな問題が…

ご紹介した判例のように、認知症や脳血管障害の場合、本人の意思能力が問われるため、回のように遺言書が無効になってしまう事例が起こります。

脳血管障害や認知症はいつ発症してしまうか、誰にもわからず予測ができません。

認知症や脳血管障害などになった場合、「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。」と民法第3条第二項に定められています。そのため「預金の引き出し・振込・振替手続き、家の売買契約等、遺産分割の話し合い」を行うことができなくなります。

①預金の引き出し・振込・振替手続き

意思能力がない場合、金融機関は、家族による使い込みや詐欺被害に合わないために金融口座を凍結します。

②家の売買契約

意思能力がない場合、不動産の売買などが行えない場合があります。

③遺産分割協議での話し合い

遺産分割の話し合いも、意思能力がない場合、行うことができません。

どうしたらいい?

遺言書だけではなく、様々な問題が認知症や脳血管障害によって起きてしまいます。遺言書を作成する際には、なるべく早いうちから作成しておき、遺言書はいつでも内容の変更などが行えるため、作成した後には1年に1回見返す時間を作ると良いでしょう。

遺言書を無効にさせないポイント

遺言書が効力を持つ要件は様々ありますが、重要なポイントをご紹介します。

ポイント①認識能力があるうちに作成する

遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。(民法963条)
ここで言うその能力とは、遺言書を作成した結果、どのような結果になるか予測・判断できることを認識能力と解釈します。

ポイント②自筆証書遺言は自筆作成

自筆証書遺言は、全文自筆で作成しましょう。
今回ご紹介した事例の遺言書は、2つとも自筆証書遺言でした。
自筆証書遺言を書く場合は、全文自筆で書かなければなりません。Wordやパソコン等で作成しても自筆証書遺言としての効力はありません。
自筆という点で、エンディングノートを思い浮かべる方もいらっしゃると思いますが、エンディングノートは遺言書としての効力はありません。

ポイント③公正証書遺言を作成する

冒頭でご紹介しましましたが、 公正証書遺言はプロの証人のもと作成されます。
そのため遺言書が無効になることが起こりにくいので大きなメリットです。
一方で公正証書にすることになるため別途手数料がかかってしまいますのでご自身にあった遺言書を作成しましょう。

事例のような遺言書が無効にならないようにするためには、司法書士などの専門家に相談しましょう。

無効にしたい場合は?

遺言書の内容に納得が行かない場合は以下の無効手続きをすることができます。

手続き①遺産分割協議

遺言書がある場合は原則、遺言書通りの遺産分割となります。
しかし相続人全員の同意があれば遺産分割協議を行い相続人同士で財産の配分を決める事が可能です。
しかし、遺言書の中に遺贈を受ける者がいる場合は、無効にすることができません。
遺言書が無効になってしまうと、遺贈を受ける者の権利自体が無効になってしまうからです。

手続き②家事調停

遺言書が無効であるかの判決を出すために、調停前置主義という初めに調停を申し立てなければなりません。
相続は家庭での問題となるため、家庭裁判所に家事調停を申し立てる必要があります。
しかし相続人同士での遺産分割が激化してしまうと調停がスムーズに進まない場合には、始めから次の段階である訴訟をすることもあります。

手続き③遺言書無効確認訴訟

遺言書無効確認調停でも納得がいかない場合には遺言書無効確認訴訟にて訴訟を起こすしかありません。
この訴訟は、作成された遺言書が有効であるか無効であるかを裁判所に判断してもらうことが可能な制度です。
この訴訟は、調停が不成立となった場合や、そもそも遺言書が有効なのか無効なのかのみを判断してもらうことが可能な訴訟になります。

ご紹介した方法はかならずしも無効にできる手続きではありません。
そのため無効にしたい場合は、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。

相続の相談は相続ぽるとへ

相続ぽるとでは、今回のような遺言書が無効にならないための相談の他にも「適切な相続の入り口」としてみなさまにご利用頂いております。
不安な方はお気軽にご相談ください。

記事のまとめ

今回は、公正証書遺言のような遺言書の種類から、トラブルの事例と無効にさせないための解決対策をご紹介しました。
事例のような無効判例にならないためにも作成方法を守り遺言書を作成しましょう。
無効にならない遺言書の作成方法や訴訟に関しては、専門家と連携が必要になりますので専門家に相談しながら進める事をおすすめします。