高額療養費制度って?見直しや申請期限など基本を紹介

高額療養費制度を利用すれば負担を軽減できる

最近ニュースでは、高額療養費の限度額引き上げが検討されていることが注目されています。

医療費が高額になった場合に、自己負担額を一定額に抑える高額療養費制度ですが一体どのような制度なのでしょうか。

本記事では、高額療養費について基本的な仕組みや申請方法、引き上げの検討による影響などをご紹介します。

一見関係のないように見える相続についても、影響が出る可能性があります。

高額療養費制度って何?

そもそも高額療養費制度とは、どのような制度なのでしょうか。

この制度は、1ヶ月(月の初日から月末まで)の医療費が一定の自己負担額を超えた場合に、超えた分のお金が払い戻しされる仕組みの事をいいます。

病気や怪我などによって、みなさんにかかる負担を軽減するための制度です。

支給対象

この高額療養費制度には、支給対象が明確に決められています。

基本的には、公的医療保険の適用範囲内の医療費になります。

例えば、以下のような保険適用内の医療費が支給対象になります。

項目内容
入院病院での入院治療にかかる費用/保険診療の検査・処置・薬剤費等
外来診療通院にかかる費用/処方薬(保険適用)
手術保険適用の手術費用/麻酔や関わる検査費用
分娩時の異常分娩帝王切開などの医療保険の適用範囲内の処置

上記にかかる費用が、支給対象になります。

高額療養費制度は、あくまで健康保険が適用される医療行為・サービスなどが対象になります。

今回ご紹介したのは、あくまで代表的な項目です。

それ以外にもリハビリ・在宅医療・特定疾病・歯科・緊急搬送などに関わるものも対象になることもあります。

高額療養費制度の範囲は広いため、必ず健康保険組合や市町村に確認するようにしましょう。

医療費(控除)と何が違うの?

自己負担額を軽減するためにある制度ですが、同じ医療には医療費控除という仕組みがあります。

この仕組みは、一定額を超過した場合に、所得税や住民税を軽減し家計への負担を軽減する仕組みが医療費控除です。

どちらも医療に関わる家計への負担を軽減する仕組みですが、方法や適用範囲、対象者が異なります。

項目高額療養費制度医療費控除
目的医療費の自己負担が一定額を超えた場合に超過分を払い戻すことで、家計負担を軽減する。医療費が一定額を超えた場合に所得税や住民税を軽減し、家計負担を軽くする。
適用範囲公的医療保険が適用される範囲のみ。保険適用外を含む広範囲。
対象者健康保険の被保険者とその被扶養者。所得税または住民税を納めている納税者。
負担軽減の方法医療費の一部を払い戻す(現金支給)。医療費を所得から控除し、税金を軽減(税額控除)。

大きく異なるのは、医療費の一部を払い戻すのが高額療養費制度で、所得税や住民税などの税額控除を受けるのが医療費控除になります。

高額介護合算療養費との違い

高額療養などの医療に関わるお金の負担を軽減する仕組みは、まだまだあります。

治療や通院、手術以外にも場合によっては介護が必要になるケースも存在します。

そのような場合には、高額介護合算療養費という仕組みも利用することができます。

簡単にご説明すると、介護保険などの介護に関わるお金も合算させて、自己負担額を超過した場合には、払い戻しがされる仕組みです。

項目高額療養費制度高額介護合算療養費制度
目的医療に関わるお金の自己負担を軽減する。医療と介護に関わるお金の合計負担を軽減する。
対象公的医療保険の自己負担分のみ。合算した場合の自己負担額が限度額を超えた場合に適用。
対象者健康保険加入者とその扶養家族。医療保険と介護保険の両方に加入している世帯(同一世帯であることが条件)。
計算単位1か月ごとの医療費(1日~月末までの合計)。1年間(8月1日~翌年7月31日)の合算額。

高額介護合算療養費制度も、現金給付で払い戻しを受ける事ができます。

この制度にも詳しい適用条件や申請手続き・書類が異なりますので詳しく聞きたい場合には、健康保険組合や市役所・社労士などに相談してみるといいでしょう。

自己負担額

高額療養費制度は、一定の自己負担額の軽減することができます。

しかし、この自己負担額には年齢や収入によって限度額が異なります。

基本的には、まず年齢で振分を行い、その後収入区分によって具体的な限度額が決定します。

基本的には70歳未満か70歳以上で振分を行います。

70歳未満の方

70歳未満の方が、高額療養費制度の自己負担額を求めるには、前述でご紹介しているように収入によって区分をします。

区分の仕方は、標準報酬月額に基づきます。

標準報酬月額とは、被保険者が受け取る給与や報酬を基に健康保険料や年金保険料の計算の基準となる金額です。

1等級から50等級に分類されています。(都道府県ごとに異なりますので、気になる方は全国健康保険協会のHPを御覧ください。)

この区分から標準報酬月額を見て、以下の区分にさらに分類します。

所得区分基準(標準報酬月額)自己負担限度額の目安
高所得者月額83万円以上約252,600円
一般所得者月額28万~50万円程度約80,100円
低所得者月額26万円以下約57,600円
参照:全国健康保険協会 協会けんぽ 令和6年度保険料額表 東京
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/
(2024年12月16日 参照)

高額療養費制度を利用する際の、自己負担限度額は上記で決めることが出来ます。

ただし、あくまでも高額療養費制度の自己負担額の目安になりますので、詳しく知りた方は、社労士などの専門家に相談することをおすすめします。

70歳以上の方

70歳以上の方が、高額療養費制度を利用する場合には標準報酬月額ではなく、住民税課税状況によって、限度額が設定されます。

住民税課税状況とは、住民税が課税されているか非課税であるか。それ以外でも課税されている場合、金額がどの程度かで区分が作られます。

所得区分住民税課税状況の目安自己負担限度額(月額)
現役並み所得者住民税課税所得145万円以上約80,100円
一般所得者住民税課税だが145万円未満の場合約18,000円(外来のみ)
低所得者(非課税世帯)住民税が非課税8,000円(外来のみ)

今回は、高額療養費の概要についてのご紹介になるため、詳しい方法は医療保険の窓口や市役所などで確認することをおすすめします。

70歳未満で利用する標準報酬月額や70歳以上で利用する住民税課税状況で、算出した自己負担限度額を超過した場合には、高額療養費として扱われ、払い戻しを受けることができます。

現物給付化(健康保険特定疾病療養受領証)

一見関係ないように見える相続にも影響が…

高額療養費制度は、医療費に利用されているお金の負担を軽減する制度です。

そのため、一見すると相続と関係ないように思われますが、直接的ではないにせよ、間接的には大きな影響を与えます。

それは贈与税と相続税への影響です。

贈与税との関係性

例えば、病気や怪我の影響で医療費を親の代わりに子どもが肩代わりしていたとします。

一般的には、税法上医療費を親が払えない場合に、子供が肩代わりするのは扶養義務に該当します。

しかし、扶養義務を超えた支払いをした場合には、贈与に該当する可能性があります。

例えば、高額療養費制度を利用して医療費が自己負担限度額に収まっているにもかかわらず、それ以上の金額を子どもが支払う場合や親が自分で支払える医療費を負担した上で、さらに余剰な金額を子どもが支払う場合などです。

相続税への影響

一般的に、高額療養費制度を活用し払い戻しを受けた後、親が亡くなった場合にその金額は相続財産としてカウントされます。

亡くなる前でも相続発生でも基本的には相続財産に加算されます。

ただし、ここで注意したいのが子どもが医療費を肩代わりしていた場合です。

高額療養費制度の仕組み上、いくら子どもが肩代わりをしていたとしても、高額療養費制度の払い戻しを受けるのは親です。

そのため、高額療養費制度の払い戻しを受けた後、親が亡くなってしまった場合には、その払戻金は相続財産として扱われます。

対処方法はあるの?

高額療養費制度の仕組み上、肩代わりをしていたとしても払うい戻しを子どもが受け取ることはできません。

そうすると、負担した方が損をしてしまうことになってしまいます。

対象方法としては、公平性を保つために遺産分割協議でしっかりと話し合うことです。

子どもが肩代わりしている場合、その払い戻し金を子どもが受け取ることを全員で合意する形が理想的です。

もし難しい場合には、弁護士に相談をし同席してもらうことをおすすめします。

給付申請手続きの方法

ここまで、高額療養費制度の概要と自己負担額、相続との関係性をご紹介してきました。

ここからは、実際に高額療養費制度の払い戻しを受ける際の手続き方法をご紹介します。

基本的に、申請を出さなければ、高額療養費の払い戻しは行われませんので、該当する場合には必ず申請手続きを行いましょう。

具体的な申請手続きの方法は以下のとおりです。

  1. 高額療養費制度の支給対象に該当するか確認する
  2. 支給申請書を入手する
  3. 必要書類を準備する
  4. 書類を窓口に提出する
  5. 審査・支給を待つ

1.高額療養費制度の支給対象に該当するか確認する

まずは、高額療養費制度の支給対象に該当するかどうかを確認しましょう。

高額療養費制度の支給対象であるかどうかは、公的医療保険の適用範囲内で自己負担額の限度額を超えている場合です。

確認するためには、以下の流れで行いましょう。

  1. 自己負担額の計算
  2. 同一月内に同じ保険者(国民健康保険・全国健康保険協会)の医療に関わる費用が限度額を超えているか確認する
    (前述でご紹介した項目全てを合算してもOK)

上記の流れで、支給対象であるかを確認しましょう。

高額療養費制度の場合は、払い戻し申請ではなく支給申請

「払い戻し」と「支給」では意味合いが全く異なりますが、高額療養費制度では健康保険法や国民健康保険に基づく制度のため、保険給付の一種として扱われます。

実際には。医療費を支払った後の払い戻しの流れですが、制度上は払い戻しではなく支給と呼ばれます。

2.支給申請書を入手する

高額療養費制度に該当する場合には、支給申請書を入手しましょう。

後述でも必要書類はご紹介しますが、この支給申請書がない限り、払い戻しは行われませんので注意してください。

支給申請書は、以下の場所で入手することができます。

  • 加入している健康保険組合
  • 全国健康保険協会(協会けんぽ)
  • 国民健康保険の場合は市区町村の窓口

上記の機関で取得することができます。

一部ではオンラインでも入手可能

一部の保険者では、オンラインでも支給申請書を提供している場合があります。

なぜ一部化というと高額療養費制度は、保険者(健康保険組合や協会けんぽなど)が払い戻しを行います。

そのため、運営主体が統一されておらず、オンラインに対応している保険者とそうでない場合のバラつきがあるからです。

また、オンライン化は法的に定められているわけではないので、一部の保険者では可能になります。

3.必要書類を用意する

支給申請書を入手した後は、必要書類を準備しましょう。

基本的に必要な書類は以下のとおりです。

必要書類
支給申請書
医療費の領収書(コピーが必要な場合もあるので確認)
被保険者証のコピー(必要な場合)
口座の情報(通帳またはキャッシュカードのコピー)

医療費の領収書のコピーなどは、なるべく取っておきましょう。

原本を返却してもらえる場合とそうでない場合があるため、必ずコピーをとっておきましょう

注意!保険者によって必要書類が異なる

前述でもご紹介しましたが、高額療養費制度の運営主体は保険者によります。

そのため、保険者によって必要になる書類が異なります。

今回ご紹介した書類以外にも必要になる書類が出てくる可能性もあるため、必ず保険者に確認を取ってから手続きを始めることをおすすめします。

4.書類を窓口に提出する

書類が準備できたなら、書類を窓口に提出しましょう。

保険者によって提出する場所が異なります。

以下の内容を覚えておきましょう。

保険者方法
健康保険組合や協会けんぽ郵送または窓口持参
国民健康保険市区町村役場の窓口

5.審査・支給を待つ

高額療養費の書類を提出した後、すぐに振り込まれるわけではありません。

必ず審査があってから振込が行われます。

こちらも保険者によりますが、1~2ヶ月の審査期間があります。

高額療養費の支給が確定すると、振込通知書が送られ、指定した口座に支給が行われます。

限度額適用認定証を利用すれば申請手続きが楽になる!

高額療養費制度は毎月申請をしなければなりません。

高額療養費の支給対象であるか確認するためには、標準報酬月額や住民税課税状況を確認しなければなりません。

しかし、毎月計算をして申請をするのは時間がかかってしまいます。

そこで、限度額適用認定証を利用することで、申請手続きが楽になる可能性があります。

限度額適用認定証とは、高額療養費制度を効率的に利用するための書類です。

この認定証を発行していれば、高額療養費制度を適用して、初めから限度額までの支払いで済むようになります。

限度額適用認定証については、各保険者のHPなどを確認しましょう。

高額療養費制度を申請する際の注意点

高額療養費制度を利用することで、医療費の負担を大きく軽減することができます。

しかし、高額療養費制度を活用する場合には、注意しなければならない点があります、

今回は、その中でも5つご紹介します。

自己負担限度額の確認をする

前述でご紹介しておりますが、高額療養費制度は自己負担額を超過した場合です。

そのため、いきなり申請書ではなく自己負担限度額を確認しましょう。

年齢・収入・課税状況によって自己負担額は異なりますので、対象になるのかをまずは確認しましょう。

支給対象外の費用も存在する

高額療養費制度の支給対象になるのは、公的医療保険の適用範囲内の医療費のみです。

そのため、適用外になってしまう医療費も含まれます。

以下のリストは、高額療養費制度の公的医療保険の適用範囲外に該当します。

公的医療保険の適用対象外の項目
差額ベッド代
予防接種
自由診療
健康診断
入院時の食費
診断書の発行費用

上記の書類は、高額療養費制度の支給対象外になりますので、注意してください。

申請期限は2年間

高額療養費制度の支給申請が行えるのは、医療費を支払った2年間です。

この機関を超過すると申請ができなくなるため、注意が必要です。

限度額適用認定証は事前に取得する必要がある

前述でご紹介した、限度額適用認定証。

この認定書を利用することで、申請書を作成する必要はなく、予め高額療養費制度を利用した後の医療費のみを支払うことになります。

しかし、この認定証は事前申請を行う必要があります。

事前申請には標準報酬月額や住民税課税状況対象以外に必要な書類がありますので確認することをおすすめします。

医療費との併用

前述でご紹介した、医療費控除と併用して利用することが出来ます。

高額療養費制度が、公的医療保険の適用範囲内の項目しか対象にならないのに対し、医療費控除は公的医療保険の適用範囲外(差額ベット代など)の項目も含めることが出来ます。

ただし、医療費控除は高額療養費制度と異なり、確定申告が必要になります。

高額療養費で支給された分の金額を、医療費控除の計算対象から差し引く必要がある

高額療養費制度は、毎月または2年以内に申請を行い、自己負担額を超過した分が払い戻される制度です。
一方、医療費控除は1年間に負担した医療費の総額を基に計算します。

このため、高額療養費で払い戻された金額は、実際の自己負担額ではなくなるため、医療費控除の対象外となる点に注意が必要です。

高額療養費制度の見直しが検討されています

最近、高額療養費制度の見直しが検討されていることをご存知ですか?

実は、自己負担額の引き上げもしくは高額療養費制度の廃止が検討されています。

自己負担額の限度額を引き上げの背景

厚生労働省は、自己負担額の上限を10%~15%引き上げる方向で見直しが検討されています。

高額療養費制度の超過分は、健康保険が負担しており高齢化により、医療費が増加すると現役世代が支払う健康保険の保険料負担が増加してしまいます。

その対策として、高額療養費の自己負担額の限度額を引き上げる検討がされています。

患者の支出増加するが、制度全体の支出は削減できる

高額療養費制度の自己負担額を引き上げると、当然患者が支払う医療費は多くなります。

しかし、支出が増えることで、これまで健康保険が負担していた分の財源を確保することができます。

その結果、現役世代が支払う健康保険料の負担を軽減する効果が期待されます。

外来特例の見直しもにかかる

外来特例とは、高額療養費制度の特例措置の1つで、70歳以上の高齢者が外来診療を受けた際、医療費の自己負担限度額を低く抑える仕組みです。

この特例により、高齢者の医療費負担が軽減されています。

現在検討されている「外来診療の自己負担額引き上げ」は、この限度額を引き上げることで、高齢者が病院に行くたびに支払う金額が増える可能性を指しています。

しかし、この見直しにより、高額療養費制度の支出を抑えられるため、現役世代が支払う健康保険料の負担軽減につながる効果が期待されています。

記事のまとめ

今回は、現役世代が負担している健康保険料の負担軽減のために検討されている高額療養費制度について、詳しくご紹介しました。

高額療養費制度は、支払った医療費が自己負担額を超過した場合に払い戻しを受ける事ができます。

高額療養費は、肩代わりをしても相続が発生してしまった場合には、相続財産になる可能性が高くなります。

それによって、家族間でトラブル担ってしまう可能性があります。

既に高額療養費を肩代わりしている場合には、早めに弁護士・税理士・社労士などの専門家に相談をすることをおすすめします。